【11月25日 AFP】聴衆の若返りを図る方法を知りたい──クラシック音楽界が抱える問題に頭を悩ませてきた指揮者のデービッド・バーナード(David Bernard)氏は、ふと疑問に思った。自分が音楽のとりこになったきっかけは何だっただろう。答えは、初めてオーケストラの中に座ったときだった。そこでバーナード氏は考えた。他の人にもあの感動を体験してもらったらどうだろうか。

 米ニューヨークのパークアベニュー室内交響楽団(Park Avenue Chamber Symphony)を率いるバーナード氏は、オーケストラの伝統的なあり方を変える試みを行っている。観客は客席から指揮者の後ろ姿を眺めるのではなく、舞台の上に並べられた椅子に座り、演奏者の周りで音楽を聴く。

 この規模では世界初となる「インサイドアウト(「内側から外へ、あべこべ」の意)」型の公演を着想するに当たり、バーナード氏がヒントとしたのは、コンサート会場ではなく、インタラクティブな劇場だったという。

 ハロウィーンには、カミーユ・サン・サーンス(Camille Saint-Saens)の「死の舞踏(Danse Macabre)」やルイ・エクトル・ベルリオーズ(Louis Hector Berlioz)の「幻想交響曲(Symphonie Fantastique)」といった不気味な調べを持つ楽曲をテーマに公演が行われ、何人もの聴衆がステージ上でいつもとは違う視点でオーケストラの演奏に聴き入った。

「どっぷり音楽に浸れる感覚が今までとは段違い。演奏者たちをより身近に感じた」と、観客の一人のリアナ・ジョンソン(Leana Johnson)さんは語った。同じく観客のジョン・ドゲット(John Doggett)さんとジェニー(Jennie Doggett)さんは、音楽がじかに届く新たな感覚に気付いたという。「音が直接おなかに響いてくるんです。特に低音楽器が」

 バーナードさんは観客がステージにいることで、奏者は通常の公演に比べて「観客の反応をよりじかに、はっきりと感じることができる」と話す。

「ある意味で、エネルギーが生み出され、音楽家たちにとっても、より特別な体験がつくり出されるんです」(c)AFP/Shaun TANDON/Diane DESOBEAU