【10月29日 AFP】中国南西部の村に住むトラック運転手のトリンレー・ノーブさん(37)は、石造りの建物の壁を3階までさっとよじ登り、窓から室内に入ってみせた──お目当ての女性のところにたどり着くために長年やってきたというだけあり、その動きはかなり素早い。

 恋愛対象の女性を夕食や映画に誘う若者たちを横目に、ノーブさんは家の壁をよじ登る技術を磨いてきた。これは、四川(Sichuan)省で母系社会を形成する少数民族ザバ(Zhaba)の男性たちが古くから行ってきた求愛行動を成就させるためのならわしだ。

 ザバ社会では一夫一妻制は浸透していない。ここで一般的にみられるのは「通い婚」だ。男たちが女性の家まで歩き、そして窓から室内へと入り込むことからそのように呼ばれている。

 しかし、ノーブさんや仲間の男性たちは、チベット高原のはずれにあるこの地域の伝統が失われつつあると嘆く。最近では、女性らが男性の献身をいっそう求めるようになっているのだという。

 インターネットやスマートフォン、ライブストリーミングの普及などに加え、交通網や教育の機会が峡谷の向こう側にまで届くようになったことから、かつては隔絶状態にあったザバの人々も、最近では外の世界のライフスタイルに触れることができるようになったのだ。韓国のテレビ番組もとりわけ人気があるという。

「今では女性たちが外部の人々と同じものを欲しがるようになった。安定した結婚生活や、家や車といった財産だよ」とノーブさんは語る。

 ある別の男性(30)は、かつて女性の家を訪れるために10キロの道のりを歩いたことがあると話す。日没後に出発し、到着したのは午前0時を回った頃だったという。当時は自動車があまり普及していなかったためだが、今では人々の多くがオートバイで移動するようになったと話す。

 さらに最近では、「デート」の約束がスマホのアプリを使って行われるようになり、伝統的に行われていた相手の意思を確かめるための男女間のゲームもすっかり廃れてしまったという。

 通い婚は1980年代に、中国政府による厳格な家族計画政策の推進とともに減少し始めた。この政策は、法律上の父親がいない状態で子どもが生まれた場合に重い罰金を科すものだったため、ザバの人々も、少なくとも紙の上では一夫一妻制による、政府の結婚証明書が必要になった。