近年の中国国内の文化重視の風潮の中で、恵山泥人形も追い風に乗って、夫妻は幸運にも開店1年目で収益を挙げ、2014、15年の上半期には収益のピークを迎えたものの、同年後半になると贈答品市場は不況に見舞われた。恵山泥人形も例外ではなかったが、夫妻はずっと夢を守り続けた。

「最初は理想を追いすぎてました。しかしここ数年の試練を経て、私たち職人はこの『腕』と『使命』を守らなければならないと考えるようになりました」と倪さんは言う。作品を通じて人と「ふれあい」、また、伝統的な考え方にとらわれず「活力を見出したい」と語る。

 店を始めた当初から、二人は伝統を守りつつも革新を試みた。「縁泥坊」の中には、十二支のかわいい萌えキャラ、おくるみにくるまれた赤ちゃんなど、従来の伝統的な姿と一味違う人形は、店のヒット商品になったという。泥人形制作の材料や色彩などもさまざまな試みを行った。また、個別注文を受け、個性を持った恵山泥人形を世に送り出してきた。「江蘇省工芸品革新的デザイン賞」の銀賞など名誉に輝いてきた夫妻は、恵山泥人形に関しては、新しい時代に「創新」を絶えず試み、ますます良くなることを信じている、と語った。

「この数年間、無錫市政府は無形文化財プロジェクトの支援に力を入れており、伝承者手当なども支給されました。しかし伝承者として肝心なことは、自分たちを高める努力をしなければなりません」と倪さんはきっぱりと言った。

「恵山泥人形の知名度は上がってきていますが、見逃してはならないのは、この業界には若者がますます少なくなってきていることです」とも語り、人材不足の厳しい現状を心配している様子だ。そのため、夫妻は店で体験授業を開いたり、恵山泥人形のコスプレをしたりと、さまざまな活動をしている。

 こうしたやり方は、恵山泥人形の伝統的なスタイルとはかけ離れている。しかし夫妻は、「歴史の変化と革新を積み重ねていくことは、恵山泥人形にも必要だ」と言う。恵山鎮の小学校で生徒たちに恵山泥人形に関する知識の普及活動を行ったり、新しいメディアを利用して恵山泥人形の作品に説明文を入れたりして、市場開拓を試みている。妻の曹さんは数百体の泥人形にQRコードを付けて、購入者がスキャンすれば泥人形の作品の意味や使用した材料、制作に要した時間などがすぐに分かる。

 夫の倪さんは、「こうしたことも、自分たちを高める努力です。もっと多くの人々に恵山泥人形が価値ある無形文化財であること、そして生命力があることを知ってもらいたい」と強く願っている。(c)CNS/JCM/AFPBB News