【10月18日 AFP】イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」は、「首都」と位置付けてきたシリア・ラッカ(Raqa)の陥落により、イラクとシリアの国境地帯にまたがる小さな「残余カリフ制国家」へと追い詰められた。同域は辺地ではあるものの戦略上重要で、敵対勢力が何としても掌握したい場所だ。

 だが専門家らは、この自称国家が多方面から攻勢を受け崩壊にひんしているとはいえ、「カリフ制国家」の消滅後もそのイデオロギー(思想)は生き永らえる可能性があり、ISはこれからも重大な脅威であり続けると警鐘を鳴らしている。

 米軍の支援を受けるクルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」は、4か月以上に及んだラッカ奪還作戦の末、17日に同市の解放を宣言した。

 米独立系シンクタンク、新米国安全保障センター(CNAS)のニコラス・ヘラス(Nicholas Heras)特別研究員は、「カリフ制国家を自称し、絶頂期の2014年にはアレッポ(Aleppo)から対イラク国境までのシリア全域を支配する勢いだったISは、東部デリゾール(Deir Ezzor)県の狭小な領域へ追い込まれることになる」と話している。

 ただ、シリアの首都ダマスカス(Damascus)からもイラクの首都バグダッド(Baghdad)からも遠く離れた「砂漠の荒野」にあるデリゾール県は、最後のとりでとしてはこれ以上ない立地だと、ヘラス氏は指摘している。

 とはいえISは既に同県内の各地で攻撃を受けており、別々に展開されている2つの作戦によって支配域を失っている。

 一つは米主導の有志連合の支援を受けたSDFが、同県を斜断するユーフラテス(Euphrates)川の東岸で展開している作戦。もう一つはロシアが支援するシリア政府軍による作戦で、これまでに県都デリゾール市の政府支配域に対しISが3年近くにわたって続けてきた包囲を破ったほか、要衝マヤディーン(Mayadeen)を手中に収めている。

 ヘラス氏は、「恐るべき真実は、ISはこれからも、国家のような存在だった時と同じように、反体制集団としてもテロ組織としても、凶悪な存在であり続けるという点だ」と警戒している。

 また、イスラム過激派に詳しいアイマン・ジャワド・タミミ(Aymenn Jawad al-Tamimi)氏は、ISが中核的な領土を失った後も、奇襲やスリーパー・セル(市民の中に潜伏する構成員)、即席爆発装置(IED)、自爆攻撃といった手段を講じ続ける可能性が高いとみている。

「欧州での攻撃は、当分の間続くだろう。国家樹立計画としてのISが敗れたことで、訴求力は確かに弱まるとはいえ、支持者はこれからも長い間残るはずだ」(タミミ氏)

 英国に拠点を置く過激化・政治暴力研究国際センター(ICSR)のチャーリー・ウィンター(Charlie Winter)上級特別研究員も、ISのイデオロギーはその「カリフ制国家」が消滅した後も長く残存すると警告し、「ISの領土を奪還すれば思想も消滅するという単純な問題ではないと思う」と語る。

 ウィンター氏は、現代のイスラム過激派としては前代未聞だった「カリフ制国家」の樹立宣言と維持を成し遂げたことを、ISは成功とみなしたと指摘。「今後長い間、世界のイスラム過激派勢力に影響を与えるだろう」という見方を示した。(c)AFP/Rouba El Husseini