【10月19日 財新】「吸って、それからゆっくり吐いて。さあ、想像してみてください。あなたは今、白い砂浜を歩いています。足元を洗う波を感じましょう」。睡眠術療法の資格を持つフー・チュンライさんが上海(Shanghai)で行っている、妊婦を対象にした出産教室の様子だ。分娩(ぶんべん)時に避けて通れない痛みに対処する方法を教えている。「押し寄せる波は安らぎを運んで来ます。波が引くときは、苦痛を持ち去って行きます。1、2、3、はいリラックスして」。出産を控えた女性たちに語りかける。

 中国で分娩中の女性が自殺したニュースは、なぜ出産時の疼痛(とうつう)管理、すなわちペインコントロールを選べる余地がほとんどないのかという問題をめぐり、国内で議論を巻き起こした。

 陣痛を和らげる硬膜外鎮痛法を用いた分娩は、米国では自然分娩の約80%を占めるのに対し、中国では10%以下。その理由は、特に公立病院における麻酔医の不足によるものが大きいと、広州母子医療センター(Guangzhou Women and Children’s Medical Center)のソン・シンロン麻酔科長は現地の英字紙チャイナ・デーリー(China Daily)の取材に答えている。中国には2016年時点で8万5000人の麻酔科医がいるが、中国国家衛生計画出産委員会(National Health and Family Planning Commission)によると、医療機関で必要とされている数は30万人だという。

「麻酔科医は、慢性的に不足しています。当院では複数の診療科を掛け持ちしている状態で、国内の他の医療機関の多くでも同じ状態です」と、広東省(Guangdong)汕頭市(Shantou)の汕頭大学医学院(Shantou University Medical College)第2病院で産科主任を務めるチェン医師は話す。

「当院の分娩室は5床あり、このうち三つはたいてい使用中です。理論上は、1床ごとに1人の麻酔科医が(無痛分娩が行われる)全過程で必要とされます。つまり、勤務シフトを考慮すると少なくとも9〜10人の麻酔科医が必要になってくるわけですが、この目標は達成不可能ですよ」

 麻酔やその他の薬剤に頼る方法に批判的な専門家は、陣痛や産後の痛みを和らげる方法として水中出産や、はり治療をも推奨してきた。しかし、水中出産用の設備がある医療機関は国内の病院の3分の1に満たない、と北京のある病院の医師は指摘する。はり治療に関しては、中国が起源であり、陣痛が緩和したとの効果を示す研究も数例あるが、病院で実際に行われることはめったにない。