【10月16日 AFP】刑務所から出所したばかりのアレハンドロ・レンジェル(Alejandro Rangel)さん(25)は、服役中に時給1ドル(約112円)で行っていた仕事を今後も続けたいと思っている。その仕事とは、森林火災の消火活動だ。

 レンジェルさんは2年以上にわたり、受刑者消防隊の約200人の隊員の一人として働いてきた。隊員らは、米カリフォルニア(California)州で山火事が多数発生する夏から秋にかけて、刑務所内で過ごすよりも消火作業にあたる時間の方が多くなる。

 例えば今週は、ワインの産地サンフランシスコ(San Francisco)の北で発生した山火事の消火作業を支援するため、受刑者ら553人が現場に送り込まれた。

 刑務所から一歩外に出れば、手錠は外され、刑務官に行動を監視されることもない。基本的には、他の消防作業員と同等の立場だ。彼らを識別できる唯一のものは、片方の脚の部分に「受刑者」との言葉がプリントされたオレンジ色のつなぎを着ていることくらいだろう。

 一番の大きな違いは、報酬がほんのわずかということだろう。危険な炎を相手に命がけで闘ったとしても、得られる賃金は時給1ドル。プロの消防士には、最低でも時給17.70ドル(約1980円)が支払われる。

 受刑者たちの仕事は、山火事の延焼を防ぐことだ。木を切り倒し、炎の周囲に溝を掘ることによって、火災を封じ込めるのだ。

 米ロサンゼルス(Los Angeles)の東方約140キロのユカイパ(Yucaipa)にある軽警備の刑事施設オーク・グレン・キャンプ(Oak Glen Camp)で訓練を受けていたレンジェルさんは、チェーンソーを専門に取り扱う作業者になりたいと話す。「でも、どんな作業でもやるつもりだ。カリフォルニアならどこでもいい」

 カリフォルニア州副知事のポジションに意欲を示すガイル・マクラフリン(Gayle McLaughlin)氏は、受刑者の消火プログラムを非道な労働力の搾取だと非難し、「無給あるいはそれに近い賃金で人々を働かせるのは、奴隷として扱うのと同じ。断じて容認できない」と語気を荒らげる。

 しかし当の受刑者たちは、わずかな賃金で重労働を強制されているといった感覚はないと主張している。実際に彼らが受け取る賃金は、カリフォルニア州の受刑者としては最高額なのだ。

■プログラムへの参加は自由

 カリフォルニア州では、1946年に導入された同プログラムによって年間1億2400万ドル(約139億円)の経費削減に成功していると推定されている。レンジェルさんの今年の収入は、現時点で1200ドル(約13万円)に上るという。

 今年に入ってから、同プログラムへの参加で受刑者が2人が消火活動中に死亡しているという。だが、同プログラムへの参加については、強制されることはなく、個人の意思が厳格に尊重されている。また参加が許されているのは、非暴力行為により有罪判決を受けた危険度が低いとみられている受刑者に限られている。

 事実、プログラムに参加する大半は、薬物犯罪や盗みなどで服役している若い男の受刑者だ。

 地元のロサンゼルス近郊サンフェルナンド(San Fernando)で民家に押し入り、盗みを働いた罪で実刑8年の有罪判決を受けたレンジェルさん。「僕は仕事をしたり、他の人たちを助けたりすることを楽しんでいる。できれば自分のキャリアを積んでいきたい」とAFPに語った。映像は、9月28日撮影。(c)AFP