【10月11日 AFP】昨今、昔ながらの性別の線引きを問う声が多くなってきた。背景には、テレビドラマや映画、美術展などで「ジェンダー流動性」を擁護するものが増え、ファッションショーにも「中性的」なモデルや服があふれていることが挙げられる。だがその一方で、線引きが不鮮明なこの問題が一躍、進歩的なテーマとして取り上げられるようになるにつれ、政治的な論争も急激に熱を帯びてきている。

カリフォルニア市内で「ヴァニティ・フェア」主催のオスカーパーティーに出席したケイトリン・ジェンナー(2016年2月28日撮影)。(c)AFP/ADRIAN SANCHEZ-GONZALEZ

「ジェンダー流動性」は、リベラル派と保守派による文化的論争では対立を生む話題だ。米ニューヨーク(New York)にあるニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート(New Museum)で開催されている「トリガー:道具そして武器としてのジェンダー展(Trigger: gender as a tool and weapon)」のキュレーター、ジョアンナ・バートン(Johanna Burton)は、新聞では「どのトイレを使用するのか」という話題に要約されてしまうことが多いと話す。

「この時代はとてもわくわくするが、同時に政治的にはとても怖い時でもある。ジェンダーは今、世の中の注目の最前線にある」「性別が二極化されている限界について人々は長年考えてきた。しかし日々の話題として新聞で取り上げられるようになったのは最近になってからだ」とバートンは語る。

 ジェンダーの問題を世間に最も投げ掛けた存在は、陸上男子十種競技の元選手で、リアリティー番組でおなじみのカーダシアン(Kardashian)一家の一員でもあったブルース・ジェンナー(Bruce Jenner)だ。ジェンナーが2015年、性別を移行しケイトリン(Caitlyn Jenner)になったことで、ジェンダー問題は人々の話題の的となった。

 米国の2雑誌「タイム(Time)」と「ナショナルジオグラフィック(National Geographic)」はトランスジェンダー(性別越境者)の人々を表紙に起用してトランスジェンダーをめぐる論争を取り上げ、「GQ」「ヴォーグ(Vogue)」「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)」などを発行している出版社コンデナスト・インターナショナル(Conde Nast International)は今月末、「性的少数者(LGBTQ)」に向けた新しい雑誌を発表する。

仏パリ市内で発表された「ヴェトモン」17/18年秋冬コレクション(2017年1月24日撮影)。(c)AFP/ALAIN JOCARD

■トランスジェンダーなスターたち

 ハリウッド(Hollywood)も一役買っている。人気SF映画「マトリックス(Matrix)」シリーズの共同監督を務めるウォシャウスキー(Wachowski)兄弟は性別を移行しウォシャウスキー姉妹となった。その後2人は、米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)が手掛ける人気ドラマ「センス8(Sense8)」でトランスジェンダーの女優、ジェイミー・クレイトン(Jamie Clayton)をハッカー役で起用した。

 トランスジェンダー問題が最初に脚光を浴びた場の一つは舞台だ。仏南部アビニョン(Avignon)で来年開催される世界最大の演劇祭は「ジェンダー、トランスジェンダーのアイデンティティーとトランスセクシュアリティー」をテーマに掲げている。

「今やジェンダーは存在しない」と語るのは、今話題のジェンダーミックスコレクションを発表している「ヴェトモン(VETEMENTS)」の経営戦略の要、グラム・ヴァザリア(Guram Gvasalia)だ。「男性でも女性でも、私たちは好きな方を選べる」とヴァザリアは主張する。兄弟のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)は、「ヴェトモン」の他にデザイナーを務めている「バレンシアガ(BALENCIAGA)」でも、ジェンダーに対して自由な考えを発表し続けている。

 パリ(Paris)やニューヨーク(New York)、ミラノ(Milan)で開催されるショーでも、最近ではジェンダーミックスなコレクションを発表することが一般化し、多くのブランドが自社の服に関して「ジェンダーが流動的」な路線を取っている。

 オーストリアの「ひげの女装歌手」として知られるコンチータ・ウルスト(Conchita Wurst)が2014年に欧州国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest)」で優勝した後、哲学者のティエリー・オケ(Thierry Hoquet)はランウェイでのこうしたトレンドを「コンチータ・ウルスト現象」と呼び、「近年はマスキュリンな特徴とフェミニンな特徴をミックスさせた人々がいる。どちらかにこだわる必要はない」として、このような「ジェンダーパイレーツ」はまれではあるが、とても影響力があるとの持論を展開した。