【10月15日 AFP】「顔をなめられたら、口を閉じること。彼らの舌は長いから」──この主催者側からの注意に、オオカミのおりを前にした参加者らは神経質に笑うしかなかった。

 このオーストリアで行われている、事業経営者や管理職の人々を対象にしたセミナーの参加者らにとっては、舌よりも不安に感じるものは他にもある。例えば鋭い歯だ。

 参加者らを好奇心に満ちた目――あるいは獲物を見る目――でうかがうシンリンオオカミのナヌクとウナの2頭は、その全高が人の腰辺りまでゆうに届くほど大きい。足、頭、口など、彼らの体のつくりは何もかもがとにかく大きい。

 参加者の一人は、「ちょっと怖い」とポロリとつぶやいた。

 2頭の捕食動物と6人の参加者との接触は、何の問題もなく無事に終わった。飼育員に「頭はだめ」と注意されながら、人々はオオカミをなで、それに応じるかのようにオオカミは鼻をひくつかせた。

 このユニークなセミナーを開催しているのは、首都ウィーン(Vienna)の北方エルンストブルン(Ernstbrunn)にある「ウルフ・サイエンス・センター(Wolf Science Center)」。施設では、オオカミやイヌを対象にその行動や知能に関する調査を行っているが、その傍らでこうしたセミナーが開かれている。

 ここには17頭のシンリンオオカミがいる。すべての個体は北米や欧州、ロシアから連れてこられ、生後10日ごろから人の手によって飼育されている。ある程度は人に慣れているが、それでも飼いならされているというほどではない。

 施設では、この畏敬の念を抱かせるような動物たちから何かを学び取ってもらおうと、セミナーを始めた。

「Talking with Wolves(オオカミと話す)」プログラムの共同考案者であるイアン・マックゲーリー(Ian McGarry)さん(50)は、参加者自身の「動物的側面」を研ぎ澄ませて「原始的レベルでコミュニケーションを行う」ことで、「リーダーシップのプレゼンス」を高めることの意味について考えてもらう機会を提供したいと話す。