【9月27日 AFP】オランダ人デザイナー、アヌーク・ウィプレチェット(Anouk Wipprecht)は、人々が自分の感情に嘘をつかなくても良い世界を願っており、ハイテクファッションがその鍵になると信じている。

 彼女の作品はデジタル技術とオートクチュールの結合と言えるだろう。社会規範にとらわれず、我々の悪習を断ち切るための解決策を見出したいと、彼女はミラノ・ファッションウィーク(Milan Fashion Week)中、AFPの取材で語った。

 32歳のウィプレチェットの作品はすでに、元「ブラック・アイド・ピーズ(Black Eyed Peas)」のメンバーでも知られるファーギー(Fergie)がスーパーボウル(Super Bowl)のハーフタイムショーで着用している。またカナダのエンタテイメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ(Cirque du Soleil)」のために3Dプリンターで作成された衣装も制作している。

 彼女の最も革新的なデザインの1つは、クリスタルメーカー「スワロフスキー(Swarovski)」と共同開発したもの。内蔵センサーにより、着用者の心臓の鼓動に合わせて光が点滅する。誰かの生命力を展示することは、シンプルに、あるいは詩的に聞こえるかもしれないが、信じられないほど自らをさらけ出すこととなる。

 例えば、片思いをしている相手と話しているときや、仕事の面接のときにそれを着用していたら? 彼らはあなたの心臓が、恐怖や興奮で高まっているのが手に取るようにわかるのだ。「鳥肌が立ったり、赤面してしまうのと同じで、自分の意思では制御できない。純粋な意味で、自分の感情をさらけ出すことができてしまう」と彼女は語る。「自分の心臓の鼓動を身にまとうというのは、本当に純粋なこと。多くの気まずい場面に直面させられてしまうことも、私にとってはとても興味深い」

■ 脳や心音を使った服

 人間の振る舞いと、デジタルクチュールの融合に魅了されたウィプレチェットは、同様の印象的な実験を行っている。有名な作品の1つは、その名の通り「スパイダードレス」だ。3Dプリントで作られた装いは、ロボティックなクモの足が襟になっている。誰かが着用者のパーソナルスペース(個人空間)に踏み込みすぎると、クモの足が「攻撃する」ように飛び出る、とウィプレチェットは言う。

 ヨーロッパや中国、米国でそのドレスを披露したあと、彼女は興味深い発見をした。「オランダの人たちはとても素早く、とても近くに来るが、アメリカ人たちはもっと紳士的だ。彼らはもっと離れたところに立つ」と彼女は言う。「私は時々、もっとパーソナルスペースに立ち入るように人々を促さねばならない。彼らは他人を尊敬する観念を強く抱いているから」

 主にニューヨーク(New York)とカリフォルニア(California)のシリコンバレー(Silicon Valley)で暮らしてきたウィプレチェットのクリエイターとしての生活は、若くして始まった。14歳の頃、彼女は「表現に富み、通じ合うことのできる」ファッションに恋に落ち、デザインの勉強を始め、その後ロボット工学に出会った。「私にとってロボットは、基本原理として脳と心臓の鼓動を持っていた。だから私は生地や衣服にも、そういったものを持ってほしかった」と彼女は語る。

 2000年代半ば、彼女がまだ大きなコンピューターをボディに縛り付けていたとき、「アルディーノ(Arduino)」と呼ばれるコミュニティを見つけた。創設者たちが出会ったという、北イタリアの街、イヴレーア(Ivrea)のバーから名付けられた「アルディーノ」は、オープンソースコンピューターハードウェアとソフトウェアの会社だ。またウィプレチェットのように、その会社のキットを使い独自のデジタル機器を作る人々の集まりでもあった。

 彼女は、いつか作品がレディ・トゥ・ウェア(既製服)のコレクションとしてキャットウォークで発表されることにつながると考えている。だが今は限界を押し上げることに集中している。「私がそこで目指すのは、人々を刺激し、もっと実験的になることだ」と彼女は語る。「もし我々がみんな、ただ輝いて、色が変わるだけのドレスを作るとしたらひどく退屈でしょう」(c)AFP/Joshua Melvin and Charlene Pele