■トランプ政権の大きな影響

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領がトランスジェンダーの軍入隊を禁止したことも問題に拍車をかけた。「彼は国民に『私は大統領だ。私が人々をこんなふうに扱えるのだから、君たちもできる』と示した。そのせいで憎しみを隠さない、正当な理由のない攻撃が増え、人々は『それでもいいんだ』と感じている」。

 同じくトランスジェンダー女性であるペッシュは、グリニッジ・ヴィレッジ・スタジオ(Greenwich Village Studio)での撮影で初めて顔を合わせた時、すぐさまダスティを安心させた。ペッシュはタイからの移民で、世界で初めてトランスジェンダー市場に特化したモデル事務所「トランス・モデルズ(Trans Models)」を立ち上げる際に、同じような困難を経験していたからだ。

米ニューヨーク市内でアラバマ州出身トランスジェンダーモデルのダスティ・ローズを撮影する、モデルで事務所の創設者ペッシュ・ディー(左)(2017年9月5日撮影)。(c)AFP /ANGELA WEISS

 ペッシュが立ち上げた事務所には現在、男女19人のモデルが所属しており、数人の男性を除きほとんどが女性だが、中には自身を男でも女でもないと考えるモデルも抱えている。タイで10年前にモデルを始めた当初と比べ、「もちろん、進歩は感じている」とペッシュは語る。「トランスジェンダーモデルたちは今でさえ活躍しているが、以前は受け入れられなかった」

「ナイキ(Nike)」、「メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)」、「スミノフ(Smirnoff)」、トランスジェンダーと公表しているモデルのハリ・ネフ(Hari Nef)がアメリカで広告塔を務める「ロレアル パリ(L'Oreal Paris)」といった有名ブランドに引っ張りだこのペッシュ。しかし米大統領について語るときは言葉を詰まらせる。「恐ろしいわ。政府が私たちを受け入れていないように感じる。どうやって生きていけばいいの?」