【9月11日 AFP】ダンス撮影では、とにかくたくさんシャッターを切る。するとバレエでも、モダンダンスでも、社交ダンスでも、毎回必ずこれはという完璧なショットに出会える。一挙手一投足の繊細な動きとか、とにかく何もかもが完璧なショットが絶対にある。

 だからこそダンス撮影が楽しくて仕方ないのだと思う。パーフェクトショットを捉えるのは良い気分だ。

タンゴダンサーのカロリーナ・ジャンニーニ。米ニューヨーク・ジョイスシアターで行われた「タンゴ・インフェルノ」公演のドレスリハーサルで(2011年1月11日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 だがその理由は、実はもう一つある。私は世界最悪のダンサーだ。幼い頃、母は私たちきょうだいを社交ダンスの教室に入れたが、目も当てられない結果だった。私はダンスは好きだったが、どうしても踊れなかったのだ。

米ニューヨークの複合施設チェルシー・ピアーズで開かれた社交ダンスのアマチュア競技会「2013年マンハッタン・アマチュア・クラシック」で、ウオーミングアップする出場者ら(2013年1月18日撮影)。 (c)AFP/TIMOTHY A. CLARY

 高校時代、女の子と知り合うためにはダンスが必須だったが、駄目だった。だからそういう人々──世界最高のダンサーたちを目にすると、そんなことができる人をうらやましく思う。踊りたいのに踊れないから、私は2番手を狙おう。つまり、写真で最高を目指そうとしている。

フランスの名門パリ・オペラ座バレエ団。米ニューヨークのリンカーン・センター内にあるデービッド・H・コーク劇場で公演された「白の組曲」のドレスリハーサルで(2012年7月11日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 ダンス撮影への興味が芽生えたのは何年も前、公立の小学校で踊る子どもたちを撮った時だった。テレビのドキュメンタリーで、米ニューヨーク(New York)の市立小学校の児童たちに社交ダンスを教える授業を取り上げていた。選ばれた5校の子どもたちがペアを組み、タンゴやらフォックストロットやら、さまざまなダンスを習っていた。私が「はまった」のはその時だった。

米ニューヨーク・クイーンズにある第49公立小学校の4年生。真剣な面持ちで社交ダンスの練習に取り組む様子(2005年5月17日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 その後ニューヨーク・タイムズ(New York Times)のダンス専門カメラマンに聞いてみると、ジョイスシアター(Joyce Theater)に行くといいと教えてくれた。以来、出演者をチェックしては時々足を運ぶようになった。

ロシア・サンクトペテルブルクの名門バレエ団、ミハイロフスキー劇場バレエ。米ニューヨークのリンカーン・センター公演でのドレスリハーサルで(2014年11月11日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 ニューヨークシティーにいる通信社カメラマンにとって日々の生活の糧といえば、政治、経済、国連(UN)だ。この三つから離れようと思ったら、ちょっと違ったことを見つける必要がある。私も自分が関心を持てるものをいくつか見つけてきた。一つはウエストミンスター・ケネル・クラブ・ドッグショー(Westminster Kennel Club Dog Show)。もう一つがダンスだ。

米ニューヨークのバルーク・パフォーミング・アーツ・センターで行われた第2回全米エアリアル選手権の女子ライラ部門に出場した、ウクライナのダリア・ビンティロバ(2016年5月13日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 興味を持ち始めてからは、ニューヨークのダンス関連の話題を探しては、面白そうなものをのぞいてみるようにした。

米ダンスカンパニー、モミックスのダンサー。ニューヨークのジョイスシアターで公演された「ボタニカ」から、「ビーズスカート」のシーンのドレスリハーサルで(2009年5月13日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 例えば、バレエの名門「スクール・オブ・アメリカン・バレエ(School of American Ballet)」の6~7歳対象の入学審査。

米ニューヨークのチャイナタウンで開かれた、スクール・オブ・アメリカン・バレエの6~7歳対象の入学審査を受ける少女(2015年4月16日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 アイスダンス。

米ソルトレークシティー五輪のフィギュアスケート・アイスダンスのフリーダンス(FD)、演技開始直前のフランス代表マリナ・アニシナ/グウェンダル・ペーゼラ組(2002年2月18日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 モダンダンス。

米ダンスカンパニー、ダンス・チャイナ・ニューヨークのダンサー。米ニューヨーク・シティー・センター「ワン・ワールド」公演前のドレスリハーサルで(2006年10月23日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 社交ダンス。

米ニューヨークで開かれたアーサー・マレー・インターナショナル主催のダンスイベント「World Dance-O-Rama」初日、出場前にロビーで練習するカナダ・アルバータ州エドモントン出身のルイス・デトリング/ダイアン・デール組(2012年3月21日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 ポールダンス。

米ニューヨークのシンフォニー・スペース劇場で開催された、第5回全米ポールダンス選手権のプロ部門で演技を披露するBrittnai(2017年4月1日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 アカデミー賞(Academy Awards)授賞式で踊るロビン・ウィリアムズ(Robin Williams)も。

米ロサンゼルスのシュライン・オーディトリアムで行われた第72回アカデミー賞授賞式で、映画『サウスパーク/無修正映画版』から主題歌賞にノミネートされた「ブレーム・カナダ」に合わせてパフォーマンスする俳優のロビン・ウィリアムズ(中央、2000年3月26日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 しまいには、ダンスに何らかの形で関わるものすべてに赴くようになった。そして大抵の場合は、それが何であれ美しい写真に恵まれた。しかもAFPの普段の配信とは一線を画すものになった。

米ダンスカンパニー、パーソンズ・ダンスのダンサーら。ニューヨークのジョイスシアターでの「ユニオン」公演前に行われたドレスリハーサルで(2016年1月20日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 私が気付いたのは、どんな種類のダンスもすべてはバレエに通じているということだ。モダンダンスでもタンゴでも、完璧なポーズを決めるには皆、同じバレエのトレーニングを積んできているように思える。万事バレエが軸になっているようだ。

ロシア・サンクトペテルブルクの名門バレエ団、ミハイロフスキー劇場バレエのダンサー。米ニューヨーク、リンカーン・センター内にあるデービッド・H・コーク劇場で公演された「パリの炎」のドレスリハーサルで(2014年11月11日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 私が一番好きなのも、バレエの撮影だ。目にするあらゆるダンスのうちで、バレエがナンバーワンだと私は思う。それはもうひたすら美しいから。

ロシアの名門ボリショイ・バレエ団のスベトラーナ・ザハロワ。米ニューヨーク、リンカーン・センター内にあるデービッド・H・コーク劇場で公演された「ディスタント・クライズ」のドレスリハーサルで(2012年10月18日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 どんなバレエだとか、どのバレエ団だとかは関係ない。見れば一様に美しい。男性も、女性も。まさに美の境地だ。

メキシコのモンテレイバレエ団のダンサー。米ニューヨーク・シティー・センターでの「ワン・ワールド」公演前のドレスリハーサルで(2006年10月23日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 足のアップ。

米バレエ団、コンプレキションズ・コンテンポラリー・バレエのダンサーのバレエシューズ。ニューヨーク、ジョイスシアターでの「ムーン・オーバー・ジュピター」公演のドレスリハーサルで(2010年11月16日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 背中を弓なりに反らせたり、指先を伸ばしたりする様子。

英ロイヤル・バレエ団のダンサーら。米ニューヨーク、リンカーン・センター内にあるデービッド・H・コーク劇場で公演された「真夏の夜の夢」のドレスリハーサルで(2015年6月23日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 ちょっとしたシンプルな動作。

米ダンサーのイザベラ・ボイルストン。ニューヨークのジョイスシアターで公演されたダニール・シムキンによるプログラム「インテンシオ」の「ノクターン/エチュード/プレリュード」のドレスリハーサルで(2016年1月5日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 そして演目があり、衣装がある。見入らずにはいられない。他の誰にもできないことをやってくれる。本当に、どうしたらあんなふうに動けるのだろう?

米ニューヨーク・シティー・バレエ団の元プリンシパル、ウェンディ・ウェーラン。ニューヨークのジョイスシアターで公演された「サム・オブ・ア・サウザンド・ワーズ」のドレスリハーサルで(2017年2月28日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 長年撮っていると、笑える瞬間も目にする。スクール・オブ・アメリカン・バレエでの、子どもたちの入学審査。1人の小さな男の子の行儀が少々悪かった。その場に居た校長が静かにするよう諭したが、その子はおしゃべりをやめなかった。そこで校長が「ダンサーになって、くるみ割り人形(The Nutcracker)に出たいんじゃないの?」と聞くと、男の子は臆する様子もなく「ううん、ママにやらされてるんだ」と答えた。これには周囲の誰もがほほ笑まずにはいられなかった。

米ニューヨークのリンカーン・センターで開かれたスクール・オブ・アメリカン・バレエの6歳対象の入学審査を受ける子どもたち(2007年9月10日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 一つ告白しなければいけないことがある。私は自分には無理だった夢を、もしかしたら自分の子どもが受け継いでくれるかもしれないと考えて、娘が4歳のときにバレエ教室へ入れたことがある。だが、ダンスに関する彼女の遺伝子は私と同じなのだろう。私の社交ダンス並みにひどかった。わが娘にはセンスのかけらもなかった。

英国ロイヤル・バレエ団のダンサー。米ニューヨークのリンカーン・センターにあるデービッド・H・コーク劇場で公演された「大地の歌」のドレスリハーサルで(2015年6月24日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 取材を重ねているうちに、大勢のダンサーと知り合いにもなった。これは役得だった。彼らはダンサーとしての技量もさることながら、人間としても興味深い人物ばかりだ。皆、同じ道をたどり、同じ体の故障を抱えている。ダンス、特にバレエは体を酷使する。

米ニューヨークのジョイスシアターで公演されたダニール・シムキンによるプログラム「インテンシオ」の「アイランド・オブ・メモリーズ」のドレスリハーサルに臨んだダンサーら(2016年1月5日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 相当長いキャリアを誇る人もいれば、早々に燃え尽きてしまう人もいる。

ロシア・サンクトペテルブルクの名門バレエ団、ミハイロフスキー劇場バレエのダンサーら。米ニューヨークのリンカーン・センターにあるデービッド・H・コーク劇場で公演された「ジゼル」のドレスリハーサルで(2014年11月11日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 言うまでもなく、ニューヨークシティーの暮らしは素晴らしい。あらゆる世界一がここから巣立って行く。最高のミュージシャン、最高のダンサー、あらゆるものの最高傑作がここにある。各分野のトップに立つ人々を撮影する仕事は常に素晴らしい。

イタリア出身のプリマ・バレリーナ・アソルータで、アメリカン・バレエ・シアターの元プリンシパルのアレッサンドラ・フェリ(上)と、アルゼンチン出身で同団現プリンシパルのエルマン・コルネホ。米ニューヨークのジョイスシアターで公演された「パバーヌ」より(2016年3月1日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary

 妙な話だが、私は単にバレエ鑑賞に行くのは好きではない。どうしてもカメラが要る。一度撮影してしまったら、座って見てはいられない。目の前のその瞬間を捉えたくてうずうずしてくる。私がずっとやりたいと憧れてきたことなのだ。でもそれがかなわないから、私はきょうも2番手を目指す……。

(c)AFP/Timothy A. Clary

このコラムは、AFPニューヨーク支局のティモシー・A・クラリー(Timothy A. Clary)カメラマンが、パリ(Paris)本社のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者と共同執筆し、2017年8月16日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。

米バレエカンパニー、スザンヌ・ファレル・バレエ団のダンサーら。ニューヨークのジョイスシアターで公演された「ハイエフ・ディベルティメント」のドレスリハーサルで(2011年10月19日撮影)。(c)AFP/Timothy A. Clary