【9月11日 AFPBB News】自宅の部屋、学校の教室、本屋やゴミ捨て場など日常生活のごくありふれた場所を、精巧な6分の1のサイズのジオラマ作品に再現するのは、19歳のジオラマアニメーター、モズ(Mozu)さん。作品を撮影した写真は、指が入り込まなければ、風景写真と見まがうほど。細部へのこだわりは、写真では分からない額縁の裏や、ゴミ箱の中身まで及ぶ。「自分が納得いくまでやめない。苦労して作った作品も、どこか違うと思えば、全部バラして作り直す。変態的なこだわりがある」とモズさんは笑う。

部屋 夜 ピース(提供写真)(c)2017 Diorama animator Mozu

■「好きなことをやれ」と両親に励まされて

 一時は漫画家を目指した父親と、美術館巡りが趣味の母親の下で育ち、小学生の頃からもの作りに夢中に。仕事で帰りが遅い父親とは、毎晩「絵」でコミュニケーションを取った。画題のリクエストを紙に書いて寝ると、翌朝には父の絵が机に置いてある。いつの間にか、自分も絵を描くことが好きになった。学校の成績は悪かったが、「好きなことをやれ」と揺るぎない父親の言葉に励まされた。

 小学5年生でプラモデルを作り始め、次第に説明書通りではなく、自由に制作できるジオラマに夢中になった。本物をじっくり観察しながら設計図を作成し、それを基にプラスチック製の板や棒を加工し、作品すべてを一から作り上げる。高校2年生のときには、自分の部屋をジオラマ作品にした。最初は椅子を作り始めたが、そこから机、その上の小物、と部屋全体を「本能的に作っていた」。自分の勘を頼りに試行錯誤し、約5か月かけて独学で完成させた。

東京都内で両親と暮らすジオラマアニメーターMozuさんの自室と、自室を6分の1サイズにしたジオラマ作品(2017年9月1日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

 さらに、完成したジオラマを舞台に、独自のキャラクター「Maru」が活躍するコマ撮りアニメを作成。本屋を題材にした短編「故障中」は、映像コンテスト「デジコン6アジア(17th DigiCon6 ASIA)」のユース部門金賞を受賞した。「ものを作りだす喜びは何にも代えがたい。誰にも縛られることなく、自分の思い通りの世界を作れるのが、ジオラマやアニメーションの魅力」

 しかし、当時はこの作品を本人も家族も「あまりすごいと思っていなかった」と打ち明ける。一時はジオラマを壊すことも考えたほど。しかし、高校の同級生がツイッター(Twitter)にモズさんの作品を投稿したところ、一晩で4万回リツイートされる大反響。最初は「正直怖かった」と振り返るが、今では自ら作品の写真をSNSに投稿し、その反応を一つのモチベーションにしている。

ゴミ捨て場 夜(提供写真)(c)2017 Diorama animator Mozu

■くすっと笑わせる小細工は「あえて見せない」

 作品を作る際は、気付いた人がくすっと笑うような工夫を忘れない。「世界一周」旅行のチラシ広告は「宇宙一周」に、空き缶のラベルにも人気商品への巧みなオマージュが。「見た人を楽しませようと、小ネタを仕込んでいるときが一番楽しい」とモズさん自身も笑顔になる。しかし、そうした細部へのこだわりを、強調することは決してしない。丁寧に再現した「ゴミ箱の中身」を、あえて映さないことが、「本物」らしさにつながると信じているからだ。

 今年春に高校を卒業したモズさんは現在、フリーで働いている。5月にはクレイアニメ―ション「ひつじのショーン(Shaun the Sheep)」を制作するイギリスの「アードマン・アニメーションズ(Aardman Animations)」に招待され、スタジオを見学。その後、同国内の別のアニメーションスタジオで研修を受けた。「一番の収穫は、自分の頭の中の完成図。世界のレベルを見たことで、作品を作る時に思い描けるレベルがあがった」

 ジオラマから、編集や撮影も含めたコマ撮りアニメ制作も一人で手掛けるため、今は「仲間」が欲しいという。「世界のどこかにいると思うが、同世代で同じことをやっている人に出会いたい」。いつか「ひつじのショーン」のような子供向け作品を作ることがモズさんの夢だ。「小さい子が大きくなった時に、あのアニメ面白かったなと思ってもらえるような作品を作りたい」。手のひらよりもはるかに小さな作品を作りながら、若干19歳の若きアニメーターは大きな夢を描き始めている。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue

ジオラマアニメーターのMozuさんの作業机(2017年9月1日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi