【8月22日 AFP】火星では、猛烈な吹雪が夜間にのみ発生するとの研究結果が21日、発表された。火星の天候に関する従来の理解を覆す結果だという。

 火星の天候をめぐってはこれまで、低くたなびく雲から降る雪が、強風がない環境のなか、ゆっくりとまばらに地面に降り積もると考えられていた。しかし、英科学誌ネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)に掲載された最新の研究論文では、氷粒子が数時間かけて徐々に降下するのではなく、嵐の中で数分以内に地表に達することが示唆された。

 しかし、論文の主執筆者で仏パリ第6大学(Pierre et Marie Curie University)の惑星大気力学の専門家、アイメリク・スピーガ(Aymeric Spiga)氏はAFPの取材に、将来地球から火星に移住する人々は、わざわざスノーブーツを持参する必要はないと語る。「雪だるまを作ったり、スキーをしたりすることはできない」「火星の表面に立つと見えるのは、厚く積もった一面の雪ではなく、むしろ霜の厚い層に近いものだろう」とその理由を説明した。

 火星の大気は地球の大気に比べて100倍希薄だが、それでも雲や風などの天候を発生させるだけの密度はある。水蒸気はほぼ含まれていない。事実、火星は本質的に極寒の砂漠で、地表には液体の水が事実上まったく存在していない。

 だが、火星の北極では、塵(ちり)の層の下に水の氷が隠れている。2008年、米航空宇宙局(NASA)の着陸探査機フェニックス・マーズ・ランダー(Phoenix Mars Lander)が火星表面をシャベルで掘り、この水氷の存在を直接確認した。

 さらに、フェニックスは局地的な天候を分析し、水氷の雲の下方で降雪の兆候を検出した。2台の周回探査機でも、特に火星の北極地域における夜間の天候を示唆する手がかりが見つかった。

 これらの観測データは当時、科学者らを当惑させた。

 スピーガ氏と研究チームは、さらに調査を進めることを目的に、より詳細なデータに基づく火星の天候シミュレーションを行うための最新の大気モデルを考案した。その中で、火星の寒冷な夜間に水氷の雲粒子が冷却されることで、雲の内部に不安定な状態が形成される可能性があることを突き止めた。

「雲から降下する雪は、非常に激しい下降気流によって運ばれることが、今回の研究で示された」と説明するスピーガ氏は、この火星の吹雪を、地球で発生する「マイクロバースト」と呼ばれる小規模の局地的な気象現象になぞらえた。マイクロバースト現象では、雪や雨を運んでいる冷たく濃密な空気が雲から急速に降下する。

 今回のシミュレーションでは、周回機や着陸機の観測データとの的確な適合を確認したと説明された。(c)AFP