■取り戻したいのは「日々の生活の喜び」

 独西部ハイデルベルク大学(Heidelberg University)老年学研究所のアンドレアス・クルーズ(Andreas Kruse)所長は、アレクサのプロジェクトには関わっていないものの、同施設のアプローチは認知症やアルツハイマー病の患者と音に関する研究に基づいたものだとみている。

 一方で、ナチス・ドイツ(Nazi)によるユダヤ人虐殺を生き延びた人々や旧ソ連の反体制派など、抑圧的な国家に暮らしていた高齢者のケアを専門にしてきたクルーズ氏は、患者を過去に引き戻すことにより、埋もれていた心の傷が再来する危険もあると危惧する。「認知症のある人たちは非常に傷つきやすく、よみがえってきた記憶から自分を守るすべを持たないことが多い」

 ボルフラム所長も東独出身だが、共産主義体制に対する幻想を抱いているわけではないと強調する。「ここで復活させようとしているのは、ポジティブな連想につながる品々が象徴する、患者さんたちの人生のある時期の感覚。物がなかった時代にあった、社会的一体性もそのうちの一つだ」

 またボルフラム氏には、高齢者介護施設と聞けば大半の人々が思い浮かべる暗いイメージを覆したいという思いもある。「皆いまだに、おむつをした入所者が長い廊下を歩き、毎日3回おかゆを食べていると思っている。われわれはお年寄りを退屈させたくない。日々の生活の中に喜びを取り戻したい」(c)AFP/Deborah COLE