【8月13日 AFP】オランダ・ブレダ(Breda)にある刑務所の壮大で明るいドームに声が反響すると、130年の歴史を持つ建物の静寂が破られる。国内のその他数十の刑務所と同じく、ここにも受刑者の姿はもうない。

 過去10年で犯罪率が低下し、同国では刑罰に対する考え方が変化した。そして、この刑務所の本来の目的は失われ、2014年に閉鎖された。

 1886年に建設されたこのドームの形をした刑務所は、その中央から収容施設すべてを見渡せるよう設計されている。英国の哲学者ジェレミー・ベンサム(Jeremy Bentham)が考案し、後にフランスのミシェル・フーコー(Michel Foucault)が構築した18世紀の社会概念「パノプティシズム」の典型的な例で、人は常に監視されていると行動が受動的になるという考えに基づいて造られている。

 ドーム内部に張り巡らされた金属製のらせん階段は、ガラス製の床の下に見えるかつての食堂までつながっており、その横にある白線で仕切られたエリアは運動場だ。これらすべてを取り囲むようにして1階から4階まで収容施設がぎっしり並んでいる。それぞれの房のさびたドアは今では開け放たれたままだ。

 かつての収容者たちとは違い、現在の利用者らは、この建物の鍵を所有している。入居している企業数は約90に上り、彼らは好きな時に自由に出入りすることができる。

 入居者たちからは、オフィスとして完璧な場所を見つけた、国の歴史的建造物に新しい命を吹き込む手助けができるといった声が上がっている。

 ある利用者の男性は、「この特別なオフィスを一目見て気に入った。高い天井、趣、大きな窓、そして光の感じも」とAFPに語った。「鉄格子は目に入らない。窓から見えるのはブレダの美しい景色だけ」

 それでも、建物の過去が消えてなくなってしまった訳ではないということは認識しており、時としてその歴史を「感じる」こともあると話す。

 オランダでは2014年以降、27の刑務所が閉鎖された。現在運営されているのは38施設。閉鎖された刑務所のうち6施設は、合わせて約2070万ユーロ(約27億円)で売却された。その他は主に難民のための施設などとして貸し出され、これまでに約1800万ユーロ(約23億円)の収入をもたらしている。