■刑の「多様化」で対応

 欧州では1990年代、犯罪率が急上昇して収容される人の数が膨れ上がった。しかし、オランダでは犯罪防止の取り組みや社会復帰に注力したことなどが功を奏し、近年はその数が減少に転じている。

 内務省で国有地の管理に当たっているアネロエス・ファン・ボクステル(Anneloes van Boxtel)氏は、「(近年、オランダの)判事はさまざまな判決を言い渡している」と述べる。それは、社会奉仕や監視装置の身体への装着、リハビリ施設への収容など、刑が多様化しているだけで、決して軽くなってる訳ではない。

 オランダの統計局によると、同国の犯罪率は2007~2015年に約26%低下している。刑務所の収容者数は、2005年の5万650人から2015年は3万7790人に減少。これは10万人当たり57人が収容される計算となり、同458人の米国と比べると圧倒的に少ない。

 こうした背景から近年、閉鎖された刑務所や拘置所を活用する取り組みが進められてきた。

 北部フェーンハイゼンにある施設の建物は、ノルウェーに刑務所として貸し出している。刑務官も込みだ。北東部ズボーレ(Zwolle)にある元の女子刑務所などは、いまや受賞歴のあるレストランになった。

 アムステルダム(Amsterdam)にある刑務所は、6000万ユーロ(約77億円)を投じて数千戸を抱える住宅地へと姿を変えようとしている。他方で、西部ハーレム(Haarlem)の施設は地元自治体が640万ユーロ(約8億2000万円)で購入し、2019年に大学として生まれ変わる。

■新たな「収容者」も

 2016年、ブレダの刑務所建物と3万平方メートルに及ぶスペースの再利用に向けプロジェクトがスタートした。当初の心配をよそに、施設は注目を集め、約300人の入居希望者が殺到した。

 プロジェクトの関係者は「もう刑務所の雰囲気はない。見回せば、それはもちろん刑務所の建物ではあるけれど、数多くのスタートアップが入居した今、新たなエネルギーに満ちている」と語った。

 あるの日の夕方、新たな「収容者」の姿が建物内にはあった。この日、参加者約350人のリアル脱出ゲームが行われたのだ。参加者らはそれぞれ収容房に入り、スタッフ約80人の助けを借りながら、制限時間内での脱出を試みた。

 脱出ゲームが終わった後、建物内は再び静まり返った。翌営業日までの束の間の沈黙だ。(c)AFP/Sophie MIGNON