【7月26日 AFPBB News】「うさぎさんだ!」。東京都府中市のショッピングモールに突如現れた動物の着ぐるみたちに、子どもたちが駆け寄る。Tシャツにも汗がにじむ暑さの中、もこもこの毛をまとった着ぐるみは、ハイタッチをしたり、抱きつかれたりと、すっかり子どもたちの人気者だ。

 しかし、子どもたちと手をつないで歩き、かわいらしいしぐさで愛嬌(あいきょう)を振りまく着ぐるみたちの何気ない動作は、実は訓練のたまもの。着ぐるみに入るスーツアクターは、限られた視野から前後の様子や子どもたちの位置を確認し、人間の足よりずっと大きな足を持ち上げるようにして歩く。どんなに疲れていても、息苦しさが悟られないよう、肩は決して動かさない。着ぐるみ内に熱気がこもる夏場は、30分でも限界だ。

 東京都多摩市の「ちょこグループ(CHOKO.group)」は、そんな着ぐるみとしての技術や経験を得ることができる「着ぐるみスクール」。ダンスや演技のレッスンを受けるため、関東圏をはじめ石川県や静岡県などから、現在約30人の生徒が通う。

「着ぐるみは、着るだけで変身できる。男の人も、女の子の面をかぶれば女の子。でも、いろんな着ぐるみに入りたければ、練習しないとできない」とスクールの代表取締役の大平長子(Choko Ohira)さん。

 大平さんは1980年代に着ぐるみの仕事をスタートし、NHKの子ども向け番組「おかあさんといっしょ」の着ぐるみ人形劇「にこにこ、ぷん」ではネズミのキャラクター、ぽろりを演じた。着ぐるみは、声も出せなければ、表情もない。子どもたちと会話をするため、全身の動きで「生きているように感情を表現」する技術を伝えようと2005年にスクールを開校し、大平さん自身が長年の経験をもとに指導に当たる。

 生徒は、プロを目指す人から趣味で訪れる人までさまざま。8年前からスクールに通う隈本慎治(Shinji Kumamoto)さん(52)は、もともとは「普通のサラリーマン」だった。ノルマや残業に追われ、一時期はうつ病を患ったが、40代でかねて憧れていた着ぐるみの仕事に出会い、人生が変わった。「普段の自分でない、弾けるような(気持ち)。やっていて、相手も笑ってくれると楽しくなる」

 数年前から家電量販店などでスーツアクターの仕事を始めた及川希(Nozomi Oikawa)さん(31)は、プロの指導を受けてみたいと今回初めて訪れた。きっかけは「くまモン」や「ふなっしー」などの人気キャラクターだったという。「ゆるキャラや着ぐるみが大好き。自分がかわいいゆるキャラになれるのが、本当にワクワクするし、幸せ」

 着ぐるみは、地方自治体や企業がデザインしたマスコットブームでもなじみ深い。しかし、毎年開かれる「ゆるキャラグランプリ」で、昨年は初めてエントリー数が減るなど、最近はそのブームにも陰りが見え始めている。

「スクールは、ゆるキャラブームが始まる前からやっている。ブームだな、終わったな、くらいの感じ」と大平さん。スクールに通う生徒数にはあまり変動はないという。「こういうものが大好きな人がいることがブームで分かった。これから一緒にまた新しいブームを作っていきたいと思う」。着ぐるみを演じる夢を持った大人たちを、変わらず応援し続けている。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue