■ラッカ再訪の「痛みと喜び」

 へザさんはラッカで拘束されていた10か月間に、5人のIS戦闘員に買われた。当時受けた虐待については詳しく話したくないと言う声は緊張していたが、茶色い目の鋭い輝きは変わらず、何度か自殺を試みたことを告白した。

 脱出に成功したのは、2015年5月。またもや市場に売られる直前、へザさんは捕らわれていた家から逃げ出し、そこで出会ったクルド系シリア人一家によってひそかにラッカから連れ出してもらった。それから、戦争で荒廃したシリア北東部を抜け、約400キロの旅をしてイラクに帰り着くと、シンジャルのクルド語名シェンガル(Shengal)を冠したSDF傘下の部隊「シェンガル女性部隊(YPS)」に加わった。

 集中的な訓練を受けたへザさんは、2016年にSDFがラッカ奪還作戦の開始を宣言したときには、仲間の女性たちと共に戦う準備ができていた。「作戦が始まったときに参加しようと思った。ここ(ラッカ)で売買されたヤジディーの女性や少女みんなのために」とへザさんは話した。「私の目的は彼女たちを解放し、奴ら(IS)に復讐すること」

 数か月かけてラッカ包囲網を狭めたSDFは、今年6月に市内に突入した。数週間後、YPSはメシュレブ地区でSDFの先陣を担うことになった。へザさんがラッカに戻ったのは、脱出以来これが初めてだった。

「ラッカ入りしたとき、言葉では言い表せない奇妙な気分になった。たくさんの痛みを抱えながら、喜びを感じていた」とへザさんは語った。

 YPSには、はるばるドイツから参加した女性戦闘員もいる。トルコ系ヤジディー教徒のメルカンさん(20)と姉のアリンさん(24)だ。2014年のISによるシンジャル襲撃のニュースに激怒したアリンさんは同年末に、メルカンさんは翌15年初頭にYPSに加わった。

 メルカンさんはメシュレブ地区でYPSが拠点としている民家の壁に、ISがシンジャルを襲撃した日付を添えてクルド語で次のように記していた。「力と奮闘により、われわれヤジディーの女性戦闘員たちはラッカに来た。8月3日の虐殺に復讐するために」 (c)AFP/Rouba El-Husseini