【7月25日 AFP】日本人男性とシリコンでできた彼らの恋人たちの日常について記事を書く、というのはいいアイデアに思えた。格好のライフスタイル・ストーリーじゃないか。だが、ライフスタイルを担当する特派員アラステア・ヒマーとAFP東京支社のカメラチーフ、ベルーズ・メリーにとって、この取材は大打撃だった。

千葉県八街市のラブホテルでラブドールの「まゆ」をベッドに寝かせる尾崎正祐樹さん(2017年6月13日撮影)。(c)AFP/Behrouz Mehri

ベルーズ(以下B):何日間かはトラウマになった。ラブドールと一緒にベッドに入る日本人男性を一睡もせずに撮影して、トラウマにならないわけがない。正真正銘の人形なんだよ。

ラブドールの「さおり」を千葉県の九十九里浜に連れて来た中島千滋さん(2017年6月14日撮影)。(c)AFP/Behrouz MEHRI
千葉県の九十九里浜でラブドールの「さおり」とサーフィンを楽しむ中島千滋さん(2017年6月14日撮影)。(c)AFP/Behrouz MEHRI

アラステア(以下A):本当だね。ライフスタイルの取材で、ましてやラブドールの取材で感情的にこんなに尾を引くなんて、誰も予想しないよ。日本人男性とシリコン製の恋人たちの生活をテーマに記事にするって、思いついた時はすごくいいアイデアだと思った。僕はAFPのスポーツ&ライフスタイル特派員として日本にいるけれど、ライフスタイルの記事としてこれをやらずに何をやるという感じだった。これまでも奇妙な体験は色々してきたし、ポルノ映画の撮影現場にいたこともあるしね。でも、ラブドールの取材に比べたら、朝飯前だ。

 とにかく、ベルーズはかわいそうだった。彼はこれまでそういう目に遭ったことがなかったからね。AFP東京支社のカメラチーフに悪いことをしたと思ってるよ。けれど僕の考えを理解してほしいんだ。この取材の準備には9か月かかった。道端で誰かを呼び止めて「あなたとあなたのラブドールの写真を撮らせてもらえませんか?」なんていうんじゃない。連絡をとって、付き合いを深めて、信頼を得ないとならない。そういう努力を、等身大の人形とデートしている日本人男性をからかうような、陳腐な週刊誌風の記事で台無しにしたくなかった。ベルーズから、取材した男性の一人、中島千滋さんに向かって、撮影のために一晩、彼の家で一緒に過ごさせてもらえないか頼んでみてくれって言われた時には、コーヒーをシャツにふいちゃったけど、頼んでみたら中島さんはOKしてくれて、ベルーズは撮影に行ったんだ。 

千葉県八街市のラブホテルで一緒にベッドに入る尾崎正祐樹さんとラブドールの「まゆ」(2017年6月13日撮影)。(c)AFP/Behrouz Mehri
千葉県八街市のラブホテルでラブドールの「さおり」の髪の毛を整える中島千滋さん(2017年6月13日撮影)。(c)AFP/Behrouz Mehri

B:彼がコンビニに買い物に行っちゃって、東京の雑然としたアパートの部屋に、僕は4体のラブドールと残された。とても変なシチュエーションだった。電気が消えたらもっと変だった。僕は自分の寝袋に潜り込んだけど、何メートルも離れていないところでは中島さんが大好きなドールの「さおり」と一緒に寝てるんだ。で、何も起きないだろうと思ってたら、彼は自分の服を脱ぎだして、彼女の服も脱がして、セックスを始めたんだ。もちろん、写真は撮ったよ。でも、控えめに言っても、ちょっと気まずかった。

千葉県八街市のラブホテルで一緒にベッドに入る中島千滋さんとラブドールの「さおり」(2017年6月14日撮影)。(c)AFP/Behrouz Mehri

A:僕はその晩、中島さんのインタビューを終えた後は家に帰ってゆっくりシャワーを浴びて、翌朝、戻ってきたら、近くのハンバーガーショップに疲労困憊(こんぱい)したベルーズがいた。夜は結局、写真を撮るのに忙しくて何も食べなかったと言って、朝食にチョコレートケーキを食べていた。

B:あの後は何日か、自分が別人みたいだったよ。2、3日は心がどうかしてたね。もちろん、いいとか悪いとか言うんじゃないんだ。でも僕には、厳しかった。

A:記録が残るように!言っておくけど、僕はベルーズに一晩一緒に過ごす必要はないよって言ったんだよ。

B:いや、あのテーマを記事にするなら、あの親密な関係を見せなくちゃだめだ。これは中島さんや、(もう1人、取材に応じてくれた)尾崎(正祐樹)さんのラブストーリーだ。だから、日常の生活を記事にする必要がある。

山梨でラブドールの「さおり」と花見を楽しむ中島千滋さん(2017年4月21日撮影)。(c)AFP/Behrouz Mehri
山梨でラブドールの「さおり」と花見を楽しむ中島千滋さん(2017年4月21日撮影)。(c)AFP/Behrouz Mehri

A:インタビューではプライベートな生活の中の、性的な部分について詳しく話そうという気になってもらえるまで、世間話やなんかをして何時間か必要だった。彼らは過去に感じた痛みと、自分なりの方法で折り合いをつけようとしていた。彼らの苦労を、記事と写真を通して敬意をもって伝えることが大事だった。

 例えば、尾崎さんが妻と娘のことを話した時……一つ屋根の下でみんな、ドールの「まゆ」と一緒に住んでるんだけど……、その不思議な暮らし方について家族たちが感じたこと。尾崎さんの娘が「まゆ」のお下がりの服を着るという話。あるいは、だんだん小声になりながら、もう人間の女性との関係に戻ることは考えられないと言ったときの中島さん。

都内の自宅でラブドールたちと並んで撮影に応じる尾崎正祐樹さん(2017年5月9日撮影)。(c)AFP/Behrouz Mehri

B:中島さんと尾崎さんがドールたちをサーフィンに連れて行った日(いや、読み間違いではない)の前の晩、彼らはミロのビーナス像のレプリカと円形のベッドがあるラブホテルに泊まった。僕も一緒にね。もうすっかり撮影にはまってしまい、その日はまた中島さんの部屋のカウチで一晩、過ごした。再び、三角関係の晩だったね。

 中島さんと尾崎さんがそれぞれの部屋で、それぞれのドールとお風呂に入りだしたのが同時でね。僕は二つの部屋を行ったり来たりしながら写真を撮った。初めてのラブホテル体験で、男性と彼のドールと部屋をシェアしたんだよ!

A:ああ、本当に申し訳なかったよ。

このコラムは2017年7月19日に配信されたAFPのスポーツ&ライフスタイル特派員アラステア・ヒマーと、AFP東京支社チーフカメラマンのベルーズ・メリーの対談を日本語に翻訳したものです。