【7月30日 AFP】米テキサス(Texas)州出身の退役軍人、チャド・ブラウン(Chad Brown)さん(45)はイラクとソマリアでの軍務から帰還した後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんだ。ホームレスとなり、精神疾患の診断を受け、20ドル(約2550円)で血を売った。自らの命を絶とうとしたこともある。

 そんなブラウンさんは今、フロリダ(Florida)州の湿地で、人生を取り戻すための活動に取り組んでいる。都市部の恵まれない若者たちと遊び、一緒にヘビを捕まえるなどして自然を満喫しているのだ。

 この野外プロジェクトを考案したのはオレゴン(Oregon)州ポートランド(Portland)を拠点とするNGO「ソウル・リバー(Soul River)」。同NGOを創設したブラウンさんによると、子どもたちはメンターを見つけ、一方の退役軍人たちは人生の展望を得られるという。

 取材した日、ブラウンさんは別の退役軍人と子どもたち5人と一緒に、フロリダ東海岸にあるアーサー・R・マーシャル・ロクサハッチー(Arthur R. Marshall Loxahatchee)国立野生動物保護区にいた。

 ガブリエル・ブリス(Gabriel Bliss)君という14歳の少年がビルマニシキヘビにかまれるというハプニングがあったが、彼は出血した手を見せながら「ヘビは最高にクールだった」と語った。

 グループはその後、腰辺りまでの深さの沼地に入って行った。ここにはワニも生息している。しかし、エバーグレーズ国立公園(Everglades National Park)のガイドは、ワニは人間の肉を好まないと説明した。ここで人を襲うのは蚊ぐらいだ。

 ブラウンさんは2011年にソウル・リバーを立ち上げた。PTSDを乗り越える助けになる唯一の手段はシンプルなスポーツ――フライフィッシング――だと悟ったからだった。

■自分探しのセラピー

 ブラウンさんは1994年に海軍を除隊し、2000年に精神科の病院に入院した。当時、どん底に落ちて、すべてを失ったようにすら思えたという。しかし、釣りをしようと自然の中に足を一歩踏み入れたことがきっかけとなり、人生が変わった。

「初めて掛かった魚を引き寄せているとき、私は笑っていた。誇らしかった」と、ブラウンさんは言う。

「飲んでいた薬のすべてが私の体から出ていくような気がした」と話し、そして「私は釣りにのめり込むようになった。フライフィッシングは私の人生における、とても重要な軸になった。私にとっては薬のようなものだった」と続けた。

 ブラウンさんは2011年、このセラピーのような予想外の経験を、自身が住むポートランドの恵まれない若者たち、そして同じ退役軍人らと共有しようと決めた。ソウル・リバーについては「私が川で自分を見つけたのと同じように、彼らにも自分を見つける機会を提供している」と話す。

 そして、子どもたちが別の方法でメンターを見つけていることについても触れた。

 実の父親に一度も会ったことがないというシトラリ・ブリセノ(Citlalli Briseno)さん(18)は、「彼(父親)に対する恨みや怒りがたくさんあったけれど…」と語り始めた。「でも、このNGOの中にいて、家族を大切にしている男性たちを実際に見たり、自分がコミュニティーのためにできるさまざまなことに触れられたりしたのは、本当に目を見張るような体験で、大きな助けになった」と自らの中の変化に気づいたことを明らかにした。