■市場を創り出す腎臓への高い需要と貧困

 カラチ(Karachi)に本部を置く腎臓移植の地域指導者的な存在であるシンド泌尿器・移植研究所(SIUT)によると、パキスタンでは毎年、約2万5000人が腎不全になっているが、透析を受ける患者はそのうち10%で、移植を受けられるのはわずか2.3%だという。アフメド医師は「多くの人々が国立病院に来ます。腎臓を提供するという家族のドナーを連れて」「その後突然、民間の病院で腎臓が買えると知ると、そっちに移るんです」と話した。

 腎臓への高い需要が、パキスタンの広大な地方に暮らす人々が貧困から脱する好機と見る市場をつくり出している。工場や田畑、れんがの窯元で雇われている人々は、医療費や養育費として雇用者から金を借りるが、借金を返済できなくなるばかりか、奴隷労働の連鎖に陥っていく。その結果、労働者たちは臓器を売って得た金でその状況から抜け出したいと願うようになる。

 数年前に腎臓を売った時の手術の痛みが残っているブシュラ・ビビ(Bushra Bibi)さんもそうしたうちの一人だ。静かに涙を流しながらビビさんは、父親の医療費と借金返済のため、12年前に自分の臓器を11万ルピー(約11万5000円)で売ったことについて語った。彼女の義父も同じ境遇だったために、彼女の夫も同様に自身の臓器を売った。だがこの必死の行動は2人に慢性的な痛みを残し、仕事や5人の子どもたちの育児にも支障をきたし、結果的に以前よりさらに多くの借金を抱えることになった。

 ビビさん家族はパンジャブ(Punjab)州サルゴダ(Sargodha)に暮らしている。この地域は国内最良のオレンジの産地だが、同時に多くの家族が腎臓取引に巻き込まれており、住民のマリク・ザファール・イクバル(Malik Zafar Iqbal)氏はドナーの権利擁護のための団体を結成した。AFPの取材に対して数百人の氏名が記載されたリストを見せながら、イクバル氏は当局者と面会してはいるが、何ら良い結果を得るまでには至っていないと話し、さらに「わたしは自分の腎臓を10万4000ルピー(約11万円)で売りました。十分ではありませんでした」と語った。(c)AFP/Khurram SHAHZAD