■リアルな肌と取り外し可能なパーツ

 ラブドール業界関係者によると、日本では毎年、約2000体が売れているという。値段は約6000ドル(約68万円)からで、頭や性器は取り外すことができ、指の調節も可能という。

 ラブドールメーカー「オリエント工業(Orient Industry)」の土屋日出夫(Hideo Tsuchiya)社長は、1970年代に作った空気を注入する風船のようなラブドールは「商品的にお粗末なものだったが、あれから技術がすごく進歩した」と語る。

 土屋氏によれば、シリコン素材が出てきたおかげで、人間の肌に近い肌触りの良いドールが作れるようになった。そうした「リアル」な姿を前に、男性はドールとの会話に「気持ちを入れる」ようになっているという。

 ドールは障害者、妻を亡くした男性、マネキンフェチなどの間で人気だ。そして中には、傷つきたくなくてドールに走る男性もいる。

「人間はいつも何かと求めてくる。例えば、結婚とかお金とか」と不満を漏らすのは、ドールの「さおり」と付き合っている中島千滋(Senji Nakajima)さん(62)だ。

 既婚者で2人の子どもの父親でもある中島さんは、さおりと一緒に風呂に入り、写真を家に飾り、スキーやサーフィンにも連れて行く。

「彼女といると癒やされる。彼女が家にいればワクワクするし、安心感もある。彼女から裏切ることはない」と、中島さん。「仕事で嫌なことがあってイライラするときに彼女を見ているとイライラが抑えられる。彼女には人間と同じパワーがあるんじゃないか」

 さおりとの関係が原因で、中島さんの家庭は崩壊した。息子はさおりを受け入れたが、娘は受け入れてくれなかったという。そして妻は、さおりを自宅に連れ込むことを禁じた。

 現在、東京の散らかったアパートに一人で暮らす中島さんは、さおりの前のドール2体と頭のない胴体だけの人形に囲まれながら言った。「人間には戻らない、どういうことがあっても」

 妻との和解の可能性はないようだ。「さおりとお風呂に入れない、一緒にテレビを見ることもできないからね」と、中島さんはさおりにレースの付いた紫色のランジェリーを着せながら語った。「彼女(さおり)との関係を崩したくはない」