■コスプレ客に特化した民宿も

 こうしたコスプレーヤーたちの需要を見込み、いち早く新たな客層として取り込んだのは、家族経営の民宿「自然郷東沢(Shizengo Higashizawa)」だ。女将の赤岩泰代(Yasuyo Akaiwa)さん(46)は、8年前から旅行会社の提案をきっかけにコスプレーヤーを受け入れてきた。

 民宿が所有する私有地には、岩や沢、池など自然あふれる撮影スポットがある。この日、手作りの衣装で、映画「もののけ姫(Princess Mononoke)」のサンの姿に扮(ふん)し撮影した砂糖味(Sato-aji)さん(仮名、22)は「サンをやるにあたって、自然の中で撮影したかった。山や川で撮影できるところは少ない」と笑顔。いろりを囲んで味わう田舎の料理にも「ご飯が豪華」と満足げだ。

 以前は札所参りや温泉などを訪れる高齢の宿泊客が多かったが、今では20〜40代の客がほとんどだ。何よりうれしい変化は、お客さんが「自然を愛してくれること」だと赤岩さん。敷地内の自然を手入れすればするだけ、ツイッター(Twitter)などのSNSで反応が返ってくる。スタッフ全員で、池にかける橋を作ったりと「私たちも頑張ってきれいにしよう、今度は何を植えようかと考え、スタジオを作るように楽しんでいる」と運営のやりがいにもつながっているようだ。

 コスプレーヤーを受け入れるようになって自身の髪の毛を染めたという赤岩さんも、若者たちと接する中で「気持ちが若くいられる」と笑う。「広く浅く受け入れるよりも、特徴を生かしたやり方をやれば、面白い町になるのでは」

■鍵はコミュニティーの団結力

 開催ごとにイベントの参加者が増える理由を、「町の雰囲気がいいから」だとブーティの布施さんは分析する。「横瀬町の方たちは、民宿の東沢さんを含め、いい人が多い。僕らが提案しなくても、町の人から前のめりで関わってくれる」のだという。

 イベントのバスの運行に協力する「小松沢レジャー農園」では、すでに次回に向けて、運行ルートや時間帯の提案が行われている。「最初は右も左も分からなかった。秩父全体が閑散とする時期などに、コスプレのようなイベントを立ち上げてもらい、たくさんの人が訪れてくれるのは有り難い。地元の横瀬町も非常に潤う」と町田裕(Hiroshi Machida)さん(39)は積極的に協力する理由を明かす。

 横瀬町では、毎年町民体育祭などを行っている経緯もあり、コミュニティーがまとまっているのが強みだ。「町でやる事業については皆さん協力的。人口減少もあるし、頑張っていかなくてはという危機感も持ってやっている」と振興課の小泉さんは言う。

 そうした町の思いは、コスプレーヤーにも受け止められ、リピーターも多い。なかには月に2回民宿を訪れる人も。愛知県から今回初めて横瀬町を訪れた重い政治(へび)(Heavy government)さん(仮名、21)は、この他にもアニメの聖地などを訪れ、地元の人たちとのコミュニケーションを楽しんでいる。「この地で体験したことを、周りのアニメファンたちにも話したい。訪れた地域が発展してくれるのは自分もうれしい」

 常連客も増え、「おかえり」と出迎えるようになったと、赤岩さんはコスプレーヤーたちとの交流をうれしそうに語る。「大きな家族みたいで、楽しんでいます」(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue