【7月4日 AFP】ポーランド東部ののどかな田園地帯の一角に、20世紀初頭に建造された見事な邸宅がある。その周囲を取り囲む広大な庭園に設けられたラベンダーの花壇にかがみ込むようにして、1人の高齢女性がその香りを確かめた。

 妄想型統合失調症を患い、感情をしばしば消失するというその女性の顔から、それまでの石のような表情がほぐれ、明るいほほ笑みがゆっくり広がった。

 幸福感の高揚、それは園芸療法またはガーデンセラピーの名で知られる治療法の効能の一つだ。

 ルスキエピアスキ(Ruskie Piaski)村にあるこの国立のメンタルヘルスケアホームでは、2014年から春季に園芸療法を導入し、今年も59人の女性入所者らがこれを受けている。

 クラクフ農業大学(Agricultural University of Krakow)で今年9月開講予定の園芸療法訓練コースを創設した生物学者のボジェナ・シェフチクタラネク(Bozena Szewczyk-Taranek)氏は、 「庭園は多くの感覚機能を刺激する環境を提供してくれる。患者は花や植物の香りを嗅ぐことができ、とげが刺さることもある」と話す。

「運動にも役立つ。例えば平衡感覚に問題がある患者は、石から石へと跳び移るのも良い」としているが、「知的障害者がいる場合は、イチイ、アジサイ、スズランといった有毒植物は確実に排除しなければならない」 と注意を促している。

 専門家らによると、園芸療法で精神障害が治癒することはないが、知的・社会的な刺激を与えることは可能で、自信と満足感の向上にもつながるという。

 ポーランドにおける園芸療法の中核施設となっているこのルスキエピアスキ・ケアホームのアリナ・アナシエビチ(Alina Anasiewicz)館長がガーデンセラピーに出会ったのは2013年、スイスへ研修旅行に出掛けた際だったという。

 アナシエビチ館長はAFPの取材に対し、「スイスで習得した相当数の手法を持ち帰ってきた」と語っている。

 館長は誇らしげに噴水を指さした。入所者らは暑い日には流れる水に触れ、浅いプールの中を、底に敷き詰められた小石の感触を楽しみながら歩くことができる。

 邸宅の反対側では、入所者3人が熱心に菜園を耕している。館長の話では、後に入所者らは栽培・収穫した野菜や果物からジャムなどの保存食を作るのだという。