■若いアーティストたちの擁護者

 バスキアの絵画を購入したことを世界に宣言した彼のインスタグラムでは、自家用機やヨット、高級ウオッチ、そして彼の愛するアートなど、贅沢な暮らしぶりを垣間見ることができる。従来のアートコレクターのほとんどはもっと秘密主義であり、このたび落札された無題作品は何十年もの間、公の場で見られることがなかった。だが彼は情熱をもって、若い世代を含む73,000人のフォロワーと関わることを望んでいる。

「(インスタグラムは)情報伝達、情報共有の面で現代美術を広める一助にはなっていると思います」と前澤氏は言う。そして新たな才能を発掘し、作品を購入するためのツールとしてもソーシャルメディアを利用している。東京では、才能あふれるアーティストに恩恵をもたらす現代アート財団を設立し、ついに彼らの擁護者となった。

 同財団の審査員特別賞を受賞した27歳の現代アーティスト、井田幸昌氏(Yukimasa Ida)は前澤氏の存在を、グローバルな美術界に挑戦する有望な日本人アーティストたちの「表看板」と評する。「前澤さんは、勇気づけられる収集家。若手アーティストを育てて影響をあたる意味において、これまで日本では存在しなかったような存在です」

 前澤氏は有望なアーティストたちを多くの観衆に紹介したいと語る。「僕の作品を買ったり、財団の活動を展開したり、将来美術館をつくることで結果的に、まだ機会に恵まれていない若手のいい作品がもっと世に出たり、僕が作品に出会って得たような感動をみなさんと共有できたら嬉しいです」

 次の計画は千葉県に美術館をオープンさせることだ。展示される前澤のコレクションにはパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)やロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)の作品も含まれる。さらに昨年5730万ドル(約63億6600万円)で落札されたバスキアによる角のある悪魔の絵画も陳列される。だが米国人美術作家のオークションで史上最高値をつけた無題作品については、世界中のギャラリーを巡回する予定だ。「僕は30年以上も公の場から遠ざかっていたこの作品を、世界中の施設や展覧会に貸し出したい」と前澤氏は語った。(c)AFP/Shingo ITO