■前澤こそが現代のパトロン

 41歳の前澤氏のこのスタイルは、絵画を投資の道具として、あるいは社会的地位を強固にするために所有する日本の従来のアートコレクターのイメージに変化をもたらす。かつて「大昭和製紙(Nippon Paper Group)」の名誉会長だった齊藤了英氏(Ryoei Saito)は、1990年に画家ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)による「医師ガシェの肖像(Bal du Moulin de la Galette)」を当時の最高値である8250万ドル(当時、約183億3000万円)で落札。またピエール・オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)による「ムーラン・ド・ラ・ギャレット(Bal du Moulin de la Galette)」を7810万ドル(当時、約80億円)で落札した。死んだら棺桶に一緒に入れて焼いてほしい、と言ってひんしゅくを買ったのは有名だが、これは後に撤回された。

「シンワアートオークション(Shinwa Art Auction)」の羽佐田信治氏(Shinji Hasada)は1980~1990年代の好景気時代について「バブルのとき、多くの日本人が投資目的として絵画を買い集めました」と語る。関税の数字を見ても、1985年に輸入されたアート作品は2億4600万ドル(約273億4200万円)だったものが1990年には34億ドル(約3779億1000万円)へと急騰している。だが、バブル時代に購入された名画は、日本の経済が破たんした途端に投げ売りされた。今の日本のアートコレクションのマーケットは、当時のピークの約20分の1に縮小したと羽佐田氏は説明する。

 コレクターの一人である出版会社「ベネッセ(Benesse)」の福武總一郎氏(Soichiro Fukutake)前社長は、離島をアートパラダイスへと変えるのに一役買い、多くの関心を集めた。前澤氏もこの分野に新しい活気を引き込めるのではないかと、羽佐田氏は考える。「いつの時代もパトロンが存在し、アート界を支えてきました。その意味で前澤さんは現れるべきして現れた現代のパトロンといえるでしょう」

 10代の頃はロックスターを目指し、レコードを通販で、そしてオンライン販売へと移行した前澤氏。1998年に創設した「スタートトゥデイ(Start Today)」は、今や日本一の規模を誇るオンラインファッションサイト「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を経営する会社となっている。米経済誌「フォーブス(Forbes)」によると、前澤氏の財産、35億ドル(約3892億円)は、日本の長者番付で11位だという。