【6月15日 AFP】国際陸上競技連盟(IAAF)のセバスチャン・コー(Sebastian Coe)会長は、ウサイン・ボルト(Usain Bolt)を陸上界のモハメド・アリ(Muhammad Ali)氏と称賛し、史上最高のスプリンターとしてスパイクを置くことになると語った。

 ジャマイカ・キングストン(Kingston)の国立競技場(National Stadium)で10日に行われたレーサーズ・グランプリ(Racers Grand Prix)を観戦に訪れたコー会長は、第16回世界陸上ロンドン大会(16th IAAF World Championships in Athletics London)で現役を引退するボルトが最後の母国レースに臨む姿を見守った。

 コー会長は11日にAFPのインタビューに応じ、3大会連続で出場した五輪で圧倒的な速さをみせたボルトは陸上界のみならずスポーツ界を席巻した逸材であり、史上最高のスプリンターとして現役を引退するだろうと述べた。

 1979年に41日間で記録した3種目を含め、中距離で合計8度の世界記録を更新した実績を持つコー会長は、「彼は五輪3連覇や世界記録で全世界にアピールする存在となっただけではない。アリ氏や同レベルの存在と言える人物以外で、私が自分の人生や陸上界で遭遇したことがないほどのカリスマ性を持っている」という見解を示した。

「アリ氏が登場したときも、われわれは同じことを話していた。その後、シュガー・レイ・レナード(Sugar Ray Leonard)、フロイド・メイウェザー・ジュニア(Floyd Mayweather Jr.)、ロベルト・デュラン(Roberto Duran)、マニー・パッキャオ(Manny Pacquiao)といった素晴らしいボクサーは現れたが、偉大なアリ氏のレベルまで到達したかといえば、それはノーだ。それでも、彼らはボクシング界を盛り上げ、新風を巻き起こしている」

「1936年に陸上で大旋風を巻き起こしたジェシー・オーエンス(Jesse Owens)氏のことも忘れることはできないし、ほかの短距離選手が残した並外れた功績を否定することもできない。しかし、頂点に君臨する者は一人しかおらず、それに対する意見が分かれることはないだろう」

 母国ジャマイカではこれがラストランとなるかもしれないボルトだが、今年8月4日から13日まで開催される世界陸上の100メートルでその輝かしいキャリアに幕を閉じるまで、いくつかの大会に出場することになっている。

 コー会長は陸上男子1500メートルの元五輪金メダリストとして、なぜボルトがこの時期に身を引きたいと望んでいるのか理解できると話し、「彼は本能的に今がその時期だと感じたのだろう。ろうそくの炎が少し揺らめくところまできているんだ。なぜもっと早く引退しなかったのかと質問されたいアスリートはいない」と推察。

 また、100メートルと200メートルで世界記録を樹立したボルトが、この15年間ですべてを出し切ったと実感して心穏やかに現役を退くことができると述べ、「じっくり考えてみれば、30代に突入したばかりで、五輪で3種目3連覇や世界記録の更新を成し遂げていたら、あとの目標はそれほど残されていない。彼は今の自分にも満足している。これからも母国の宝であり、それだけでもう十分だ」と語った。 (c)AFP/Greg Heakes