■脈々と受け継がれてきた市民としての誇り

 19世紀初頭の木綿産業で繁栄と市民としての誇りを育んだマンチェスターは、政治的にも経済的にも改革の旗手となり、自由貿易をけん引した。

 それを象徴する荘厳なフリー・トレード・ホール(Free Trade Hall)は後にコンサートホールとして使用されるようになった。ボブ・ディラン(Bob Dylan)がアコースティックギターをエレキギターに持ちかえた頃の1966年の公演中、1人の観客が「ユダ(裏切り者)」と叫んだ逸話を残したのもこの建物だ。1976年にセックス・ピストルズ(Sex Pistols)がここで行ったコンサートには、ザ・スミスやザ・フォール(The Fall)、ジョイ・ディヴィジョンのメンバーらが皆、客として足を運んでいた。

 マンチェスターで脈々と受け継がれてきた市民としての誇りは、今回の襲撃事件に対する地元ミュージシャンたちの反応からも見て取れる。オアシスのノエルはインスタグラム(Instagram)に「アイ・ラブ・マンチェスター」という言葉が書かれたキーホルダーの写真と共に「言葉もない」と投稿。スミスのマーは「マンチェスターは団結する」というメッセージをツイッター(Twitter)に書き込んだ。

 ジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーの元ベーシスト、ピーター・フック(Peter Hook)は英BBCラジオで、事件が起きたコンサート会場に自分の娘がいたが命に別条はなかったことを明かし「他の人たちが今日経験したことはまったく想像できない」と述べ「この街の人々は不幸にめげず、ひるまず前進する。私たちは、いつまでも打ちのめされたままではいない」と語った。

 ハスラム氏は、今回の襲撃事件で街の価値が損なわれることはないと主張する。「マンチェスターのクラブが世界中で知られているのは、非常に熱狂的でさまざまなものが融合されているからだ」

「昔の曲で『ワン・ネイション・アンダー・グルーブ(One Nation Under a Groove)』(一つのグルーブの下の一つの国)というのがあるが、この精神こそがマンチェスターの人たちが心から大切にしているものだ。この精神はこれからも受け継がれていく」(c)AFP/Rosie SCAMMELL/with James PHEBY in London