■独立心と労働者階級特有の気質

 アシッドハウスの発信地となったマンチェスターの伝説的なクラブ「ハシエンダ(Hacienda)」のレジデントDJ(専属DJ)を務めていたデーブ・ハスラム(Dave Haslam)氏はAFPの取材に対し、この街の独立心と労働者階級(ワーキングクラス)特有の気質は豊かな創造性の鍵であり、今回起きた自爆攻撃に対する不屈の闘志の源だと語った。

「この街にはいつの時代も独立心があり、時にはそれがサフラジェット(20世紀初頭の婦人参政権運動)のように政治運動の形を取ることもあるし、この数十年ではその精神が音楽を通じて表現されてきた」

「マンチェスターの存在意義は工業力だったが、それがやがて廃れた。1970年の終わりごろには街にはほとんど何もなくなり、倉庫ばかりが目立ち、失業者があふれ返った。そこで人々は持ち前の才覚を取り戻し、誰も聞いたことがないものを表現するようになった」

 ハスラム氏はこう続けた。「この街は歴史的に非常に色濃い労働者階級の街だ。何かを模倣するよりも、何が本物かを言い、決して妥協しないことの方が重要だと考える心の持ちようは、そこから来ていると思う」

 マンチェスターの音楽的遺産は、何世紀にもわたってこの街に移り住んできた大勢のアイルランド移民がもたらしたロマン主義文学の結実でもあり、これによって詩的な要素と実用主義が融合されることにもなった。マンチェスターと、同じく音楽的な歴史が豊かな近郊の都市リバプール(Liverpool)はいずれも、アイリッシュ海(Irish Sea)を渡って来た移民が最初にたどり着く港だった。

 マンチェスターが生んだ最も有名なミュージシャンたち──ザ・スミスの元フロントマン、モリッシー(Morrissey)や元ギタリストのジョニー・マー(Johnny Marr)、オアシスの結成メンバーであるノエル・ギャラガー(Noel Gallagher)とリアム・ギャラガー(Liam Gallagher)兄弟らはアイルランド系だ。