【5月22日 AFP】世界共通の言語と呼ばれてきたラップ音楽は、消滅の危機に直面している少数言語を守る手段ともなり得る。

 世界中の小規模な言語社会で今、先住民たちがコミュニケーションの手段としてラップを取り入れ、自分たちの言語に新たな息吹を与えている。それまでは予想もしなかったようなオーディエンスも獲得しているという。

 アーティストたちの経歴や動機はさまざまだが、唯一共通するテーマは、ヒップホップが持つ力の実現だ。1970年代に米ニューヨーク(New York)ブロンクス地区(The Bronx)のストリートカルチャーの一つとして誕生したヒップホップはその後世界中に広まり、少なくともスタイル上では共通言語として多くの若者たちに受け入れられた。

 コロンビア北部の山岳地帯に位置するアンティオキア(Antioquia)県で暮らす先住民の10代の兄弟、ブライアン・タスコン(Brayan Tascon)さんとダイロン・タスコン(Dairon Tascon)さんは数年前、バルパライソ(Valparaiso)の中央広場で行われていたストリートパフォーマンスを見た際に初めてラップと出会った。

 ラップにエネルギーや即興性を見出した2人は、自分たちの言語であるエンベラ語でラップを再現。エンベラ語は、コロンビアやパナマで使われている言語で、使用者は10万人に満たないと推定されている。

 ユーチューブ(YouTube)に投稿した動画で2人は、初期の頃のラッパーを真似て「Yo」と言うかのように手を前方に突き出している。けれど彼らが身に着けているのは金のチェーンではなく、エンベラの人々特有のカラフルな首飾りやヘッドバンドだ。AFPの電話取材に応じたダイロンさんは「以前はラップと言えば、ドラッグや暴力のことを歌にしただけだと思っている人もいた。でも僕たちにとって音楽は、いかに話すか、いかに生きるかということなんだ」と語った。