【5月15日 MODE PRESS】東京・品川の原美術館にて、写真家で映画監督の蜷川実花(Mika Ninagawa)による個展「蜷川実花 うつくしい日々」が、5月19日まで開催されている。日本を代表する演出家であった父・幸雄(Yukio Ninagawa、享年80)の命日と偶然会期が合わさったという、わずか10日間の企画展。その写真約60点が、同名の写真集に収められた。

 蜷川が父を亡くしたのは昨年5月。その前後半年ほどの間に撮影したという今回の作品には、窓越しに見える景色や移りゆく季節など、なにげない瞬間が切り取られている。世界と別れゆく父の視線、それを受け継ぐ娘の視線が重なりあい、親子間のパーソナルな心情が静かに感じられる作品だ。訪れる死への不安や悲しみの中にキラキラとした生の輝きが捉えられ、父から娘、そしてその子供へと繋がれていく命のリレーがそこに浮かび上がっている。

「蜷川実花 うつくしい日々」展会場にて(2017年5月11日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

■導かれるようにして、辿りついた

 日常的に撮影した多くの風景写真は、いつか写真集にまとめようと思いつつ、なかなか手を付けられずにいたという。だがある日ふと手を付け始めたら「すっと、なにか流れて辿りつくかのように」構成が出来上がった。展覧会のレセプションは偶然にも命日(5月12日)に行われ、「導かれてここまできたような写真展と写真集になっている」と蜷川は感慨深げに語る。

 今までの蜷川作品のイメージを覆すような、淡く優しい世界は「わりと新しい私の写真の形。ずいぶん趣が違うので、皆さんの目に新しく映るのではないか」と本人も認めるほど。「父は入院していたので、もう外に出ることはないだろうなと思いながらシャッターを切っていた。たぶん(父親の心情と)多少シンクロしていたのじゃないか。『こんなに桜ってきれいだったっけ?』って思ったり、なんてことのない横断歩道がまぶしく見えたりした」

「蜷川実花 うつくしい日々」展会場にて(2017年5月11日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

■命が生まれる5月、世界はあまりに美しかった

 この展覧会は春、ちょうどこの作品が撮影された季節と重なる。「この時期って、ものすごく天気がいい。新緑が芽吹いて『ああ、生命ってこうやって誕生するんだな』ってすべてが美しく見えたし、その世界と人はいつか別れていくんだなっていうことがすごく染み入った」。とくに藤の花を撮った幻想的な作品は「あまりにも美しくて、世界を圧倒的に肯定している写真になっていると思う」と語る。

 ファインダーを覗く蜷川の心境が特別だったのは、父親の具合が悪くなった時期と、自身の子供が生まれた時期がほぼ重なっていたからでもある。「風船が萎むように具合が悪くなっていく父と、生命力のかたまりのような生まれたての赤ちゃんのコントラストがすごく鮮やかで、その真ん中に私がいる感じがした。『人間ってこうやって生まれて、亡くなっていくんだ。悲しいけれど当たり前なんだな』と思いながら過ごしていた」

「蜷川実花 うつくしい日々」展会場にて(2017年5月11日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji