【5月12日 AFP】人間の嗅覚はネズミやイヌ並みに鋭いとする研究結果を、米国の研究者が11日発表した。100年ほど前から述べられてきた正反対の「俗説」を覆す内容だ。

 米科学誌サイエンス(Science)に掲載された論文によると、米ラトガース大学(Rutgers University)の神経科学者ジョン・マクガン(John McGann)氏は、人間の嗅覚が劣っているという、同氏が言うところの「誤解」を導いた過去の研究や歴史的文献を見直した。

 人間は約1万種類のにおいを嗅ぎ分けられると長年考えられてきた。だが、その数は実際には1兆種類近いとマクガン氏は言う。

 同氏の論文によると、人間の嗅覚は貧弱だとする「俗説」の出どころは、19世紀フランスの脳外科医で人類学者のポール・ブローカ(Paul Broca)だという。ブローカは1879年の論文の中で、人間の脳の中で嗅覚野の容積が他の部位に比べて小さいことに言及していた。このことは人間が自由意志を持ち、イヌや他の哺乳類のように生き残るために嗅覚に依存する必要がないことを意味すると、ブローカは主張した。

 ブローカの説は、精神分析学を確立したオーストリアの神経科医ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)にも影響を与えた。フロイトは、嗅覚が欠落すると精神疾患にかかりやすくなると考えていた。

 マクガン氏は「嗅覚に支配されていては理性的な人間にはなれないというのが、長年の文化的信念になっている。嗅覚は世俗的で動物的な傾向と関連付けられていた」と指摘する。

 マクガン氏によると、嗅覚情報を処理する脳組織の嗅球(きゅうきゅう)が脳全体の容積に占める比率をみると、人間のわずか0.01%に対し、ネズミでは2%に及ぶ。

 だが、人間の嗅球は実サイズがかなり大きく、成人で約60ミリに達することもあり、他の哺乳類の嗅球と比べてほぼ同数の神経細胞を持っている。

 嗅覚に関する人間とイヌとネズミの間の違いは、特定のにおいに対する感受性の差に帰する可能性がある。「人間にはにおいの痕跡をたどる能力があり、人間の行動状態と感情状態はともに嗅覚に影響される」とマクガン氏は記している。

 ただし、上等のワインの香りを嗅ぐことに関しては人間の方が上手かもしれないが、その辺りの消火栓に付いたさまざまな種類の尿の臭いを分析することにかけては、やはりイヌに軍配が上がりそうだ。(c)AFP/Kerry SHERIDAN