【5月12日 AFP】香港(Hong Kong)北西端の村にあるコウ・オイスムさんのつつましい家は、彼女の母が植えた木々に囲まれている。コウさんは健康に効果があると信じてその葉を乾燥させたお茶を入れている。

 狭い路地、質素な家々、その間を歩き回る犬猫──崩れかかったこの田舎の集落が今、脅威にさらされている。村の住民たちは香港政府から、2018年までの立ち退きを求める通知を受け取った。新たな住宅開発のためだという。

 香港の都市部は過密状態で家賃が非常に高く、手頃な住居を見つけることが難しいため、政治家の中には、香港の過疎地域の開発が不可欠だと主張する者もいる。香港島の中心部以外は森林や公園、散村などだ。

 しかし、政府のアプローチは民衆を犠牲にして民間開発業者や地方の有力者といった小集団を利するだけだという批判の声もある。

■「この土地に心血を注いできた」

 コウさんの家に立ち退き通知が届いた1か月後、母親が脳卒中を起こした。ショックを受けたことが原因だとコウさんは言う。母親はその1年後、昨年12月に亡くなった。

 コウさんはAFPに対し「母には心の準備ができていなかった。母は公営住宅や高層ビルには暮らしたがらなかった……この土地に心血を注いできたのだから」と語った。

 コウさんが住んでいるのは3つの村落から成る横洲(Wang Chau)だ。横洲にはホタルや固有のアマガエルが生息しており、約100世帯が暮らしている。だが、公営住宅4000戸の用地のために破壊されようとしている。

 1950年代に親世代が中国本土からやってきて以来、ずっと横洲で暮らしてきた住民もいる。ほとんどの村民の家は自前だが、家が建っている土地は個人(たいていは村を離れてしまった先住の村人)から借りている。

 横洲の破壊に対する補償金は住民の一部にも支払うと政府は述べているが、村民や活動家らは、補償は家の持ち主ではなく土地の所有者に払われるのだろうと考えている。彼らはこの開発計画について意見を尋ねられたことはなく、集落を明け渡したくないと主張している。横洲で育った村民の一人、ラムさんは「私のルーツはここだ」と語った。