【5月4日 AFP】2年前、ミャンマーのヤンゴン(Yangon)のホテルでティリ(仮名)さん(28)は、心臓を激しく鼓動させながら全身を震わせていた。望まない妊娠を終わらせるために中絶薬の最後の1錠を飲み込んだときのことだ。

 恋人は妊娠を知ると、ティリさんを捨てた。だが、婚前交渉を持った女性が「堕落している」と見なされることが多いミャンマーでは珍しい話ではない。他に選択肢がなかったティリさんは、大勢の女性たちと同じ道を選んだ。命を危険にさらしながら闇の違法中絶に頼ったのだ。

 AFPの取材に応じたティリさんは当時を振り返った。「(薬を飲み終えると)心臓がものすごい速さでドキドキし始め、全身が震え始めました。それから出血し、腹部に痛みが起きたのです」

 ミャンマーでは、母体に生命の危険がある場合を除いて妊娠中絶は禁止されており、法律に違反した医師は最高10年の禁錮刑を科される恐れがある。

 仏教徒が多数を占めるこの国では、セックスについて話すこと自体がタブーとされ、公用語のビルマ語には「膣(ちつ)」に相当する単語もない。避妊具の入手は実質的には可能だが、使用方法を知っている女性はほとんどおらず、多くの若者は恥ずかしくて買えずにいる。

「女性たちはセックスの話をしません」と話すティリさんは、現在の婚約者には中絶経験があることをまだ打ち明けていない。「(セックスや中絶の問題は)言ってみれば秘密なんです」

 セックスにまつわる問題について語ることを避け、恥ずべきものと見なすミャンマーの文化では、違法で危険が多い妊娠中絶をやむなく選ぶ女性は年間25万人以上いるはずだと専門家は指摘する。

 妊産婦10万人中死亡例282人というミャンマーの妊産婦死亡率は東南アジア諸国では2番目に高く、同域平均の2倍に相当する。当局の発表では、ミャンマーでは人工妊娠中絶は死因の約10%を占めているが、感染症による死亡例を含めれば実際の割合はもっと多いと専門家はみている。