【5月2日 AFP】スペイン西部にある洞窟の中は暗く、そして驚くほど暖かい。洞窟の奥には、先史時代の過去と現代との最も密接なつながりを示すものが隠されている。数万年前に描かれた手形だ。

 スペイン人考古学者のイポリト・コジャド(Hipolito Collado)氏と調査チームは、スペインの都市カセレス(Caceres)にあるこのマルトラビエソ洞窟(Maltravieso Cave)にはもう1年近く入っていない。洞窟の壁面を飾る57の色あせた手形に損傷を与えないようにするためだ。これらは、まだほとんど何も明らかにされていない遠い昔の歴史の断片を今に伝える貴重な遺物だ。

 現生人類の祖先または遠縁の人類種が、洞窟内で手を描いた理由は何だろうか。単に自分の跡を残したかっただけなのか、それとも精霊と交信するための儀式の一部だったのだろうか。

 約1万年前に終わった旧石器時代における女性の役割について何かを説明しているのか。そして、一部の指が欠けているのはなぜなのか。

■手の届かない芸術を届くものに

 カセレスがあるエストレマドゥーラ(Extremadura)州の州政府の考古学調査チームを率いるコジャド氏は、これらの謎のいくつかを解明することを目指して、欧州に存在する先史時代の手形壁画すべてのカタログ化に着手した。

 調査チームは、欧州にある洞窟で採集した手形のスキャン画像や高解像度写真を、フリーで利用できるオンラインデータベースに詳細な3D形式で登録している。この活動は、欧州連合(EU)が資金を拠出するプロジェクト「ハンドパス(Handpas)」の一環として実施されている。

 プロジェクトの構想は、世界中の研究者がそれぞれの洞窟を訪れたり、保存のために閉鎖されている洞窟への立ち入り許可を得たりする必要なしに、欧州にある手形壁画のすべてを1か所で分析できるようにすることだ。これにより、画期的な成果が生み出されることが期待されている。

「プロジェクトの目的は、手の届かない芸術作品に手が届くようにすることだ」と話すコジャド氏は、曲がりくねった窮屈なマルトラビエソ洞窟を最後に訪れて以来、二酸化炭素(CO2)濃度、気温、湿度などの変化を常にセンサーでチェックしている。

 かつてはカセレスの貧困地区だった場所に立ち並ぶ高層ビルに囲まれたマルトラビエソ洞窟は、1951年に採石場で発見されたが、数十年間放置されたままになっていた。その間、肝試しや怖いもの見たさなどの人々が無断で洞窟に出入りしていたが、1980年代半ばに当局が侵入を禁止する鍛鉄製の門扉を設置した。