【5月11日 AFP】私は特に馬好きというわけではない。馬といると居心地がいいわけでもなく、乗馬に関しては全くやりたいと思わない。だがパリ(Paris)の少し南、グロボワ(Grosbois)の馬専用病院の話を聞いたとき、私は興味をそそられ、結局、この忘れられないほど美しく独特な場所で6日間、写真を撮影することとなった。

 グロボワについて初めて耳にしたのは、テレビのドキュメンタリー番組だった。馬専用の病院があるという事実以外に私がすごいと思ったのは、手術後に馬を覚醒するやり方だ。術後の覚醒は術中のあらゆる工程と同じく重要だ。馬とそのハンドラーにとって常にとても速く危険だ。だから私はその場に行ってよく見ることにした。

(c)AFP/Martin Bureau


グロボワで最初に心を打たれるのは、その場所の純然たる美しさだ。それはパリ南郊のオルリ空港(Orly Airport)からそう遠くない所に位置し、面積は約400ヘクタール。敷地内にはルイ13世(Louix XIII)的な城があり、今は馬の博物館になっている。その完璧な場所のすべては最大1500頭の馬を迎えられるように設計されている──馬のための馬小屋、オーナーたちのための宿泊施設、鍛冶場と蹄鉄工、馬具類、三つのトレーニング用トラック、最新鋭の馬専用病院だ。

 グロボワはここフランスで大規模な乗馬センターだ。馬とそのオーナーらは、近くのバンセンヌ(Vincennes)で開催される冬のレースに出場するために、ここに泊まる。病院は、馬を診てもらうために国中から人々がやって来ると評判だ。

 私が最初に見た手術は膝の手術だった。手術はうまくいったが、大事な覚醒の工程はそうでもなかった。まだ眠っていた馬は逆さまにされ、4本の脚をつり上げられた。けがを回避するため、壁には全面にパッドが張られていた。馬が覚醒するとき、ハンドラーたちは覚醒を助けるためと事故を防ぐために馬の頭と尾をつかむ。

手術を終えて術後の回復室へ。(c)AFP/Martin Bureau

 馬が覚醒しかけたとき、背中のロープがはずれた。ハンドラーたちは安全第一で、馬を再び下ろした。私はその状況を利用して写真を撮りに行った。「すぐにそこをどけ!」と、即座に言われた。「死んでしまうぞ!」。誇張しているように思われるかもしれないが、実際にとても危険だ。

 間もなくして、馬は覚醒し、自分の脚で立った。そんなふうにして、一瞬だった。馬はまだ意識がはっきりしていなかった。体重600~700キロの馬がパニックを起こしたらと思うと、あまり近くに寄らない方が良かった。

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 時に手術は局所麻酔で行われる。その場合、馬は金属のバーの間に立ったままになる。

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 だが念のために、必要な時はハンドラーが逃げられるように、術後の部屋のドアは開けたままにしておく。放射線科医によれば、方向感覚を失い怖がっている馬が来て、パニックに陥り、ハンドラーの骨も含めて自分の進む道上にあるものをすべて壊したことがあったという。ハンドラーは床に倒れて血を流した。

 かなり現実的な危険性があるにもかかわらず、ここの雰囲気は極めて平和的だ。スタッフは経験豊富で簡単にうろたえることはない。彼らは皆、細心の注意をもって極めて慎重に優しく、馬の世話をしている。誰もが果たすべき役割を持っている。

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 ある時、その放射線科医が見事な黒色のサラブレッドを連れてきた。若く、気性が荒いようだった。病院の反対側のドアが音を立てて閉まると、耳をピンと立てるようなタイプの馬だ。彼は独りで、たまたま私が近くにいたため、彼は私に少しの間、手綱を持っていてくれと頼んできた。私は丁寧に、おそらくその仕事には私は神経質過ぎるだろうと示唆した。「そう、彼にはそれがわかる」と、放射線科医は答えた。

 病院は、コーヒーマシンと最新の高級雑誌が置かれた待合室など、人間のための設備もすべて取りそろえている。

 診察室、超音波設備、手術室──ここではすべてが馬サイズだ。

待合室。(c)AFP/Martin Bureau

手術室。(c)AFP/Martin Bureau

 馬サイズのランニングマシンまである。そのため、馬が運動していても、ひいては疾駆していても、診察が可能だ。

ランニングマシン。(c)AFP/Martin Bureau

 手術は人間の病院と同じように行われる。看護師、麻酔科医、そして、すべて準備が整ったときに現れる外科医がいる。だが回復時間は人間より馬の方が少し短い傾向がある。馬はたいていの場合、月曜に来て火曜に手術をして、水曜には帰る。

 手術室は2部屋ある。消化器、呼吸器、皮膚の問題などの軟組織の手術室と、骨や循環器疾患の手術室だ。

 ここは一流の病院であり、フランス全土から人がやって来る。例えば、ある日、私が遭遇した70代の女性は300キロ以上離れたメッス(Metz)から、馬2頭と乗り手らを連れてはるばる来ていた。

 その内の一頭の写真を撮っていると、女性が近づいてきた。「美しいでしょう?」と話しかけられたので、「りっぱですね」と返した。なぜメッスからはるばるやってきたのか尋ねてみた。彼女の街にも腕のいい獣医師がいるのではないか? 彼女は私に、ここには25年間通っていると語った。「信頼の問題よ」

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 私は、馬の写真撮影を嫌がるオーナーもいるだろうと警告されていた。だがそんなことは全くなかった。一度、城の前に立ち、馬に乗った人が私の前を過ぎ去るのを待っていた。以前にはたくさん見たのだが、その日は誰も来なかった。そしてついに、1人視野に入って来た。私はシャッターを押した。その人は向きを変え、私の方に向かって来た。私は文句を言われるのだろうと身構えた。だが代わりに、彼は私に、彼と馬の写真を撮ってほしいと頼んできた。私は、いいけど、それならもう一度、城の前を通ってほしいと答えた。そして、素晴らしい馬の素晴らしい写真が撮れた。(c)AFP/Martin Bureau

男性と彼の馬。(c)AFP/Martin Bureau

このコラムはAFPパリ本社のマルタン・ビューロー(Martin Bureau)カメラマンがピエール・セレリエ(Pierre Celerier)記者と共同で執筆した記事をヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者が翻訳し、2017年3月20日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。