■試せるゆとり

 ボーマイヤー氏はUBIの受給者について「みんなが前よりもぐっすり眠れているし、怠け者になった人はいない」と語る。UBIを受給し始めたことによって、金銭の心配が要らなくなったということから人生の一大転機まで、受給者はさまざまなポジティブな経験をしている。

 受給者の一人、バレリー・ルップさんは独公共放送ARDの最近のインタビューで「一日一日を暮らすプレッシャーがなくなれば、人はもっとクリエーティブになり、いろいろなことを試すことができる」と語った。ルップさんはまだ幼い子どもの世話を自分でできるようになった上、ショーウインドーの装飾を担当するデコレーターとして仕事を始めることもできた。その間、アフリカのマリ出身の夫がドイツ語の授業を受けることさえできている。

 受給者たちは、毎日の食卓に乗せるパン代を稼ぐのがやっとだったような賃金の職を離れて教師になったり、慢性になってしまっていた病気の治療を行ったり、アルコール依存症から脱却したり、家族を世話したり子どもの学費を払ったりできるようになった。

「即効性があって(変化を)後押ししてくれる贈り物だ」と受給者のアストリッド・ローベイヤーさんは言う。彼女は受け取った資金を使って、葬儀の際に追悼の言葉を送ったり、筋肉の緊張をほぐす療法「アレクサンダーテクニーク」を学んだりした。

 ボーマイヤー氏のスタートアップ企業による実験はソーシャルメディアで注目を浴び、ドイツでUBIに関する議論が盛んになった。