【4月14日 AFP】人けのない通り、「売り出し中」の看板、道路の舗装を突き破って生える雑草――フランス中部の村、バルジー(Varzy)は大統領選の鍵を握るテーマの一つ、さびれた地方部の窮状を象徴している。

 人口約1300人のこの村に2軒だけ残ったバーの1軒のカウンターで、トラック運転手のミシェル・カドゥールさん(58)は、ここ数年間に閉店した飲食店を数え上げる。

「ここには何も残っちゃいない」「客がいないと分かってるから、若い連中は何の商売も始めようとしない。今どき夜に営業してる飲食店といったらこのケバブ屋くらいだ」。赤ら顔のミシェルさんはため息をつきながら語った。

 フランスの地方の都市や村の運命は、今月23日から5月7日にかけて行われるフランス大統領選に大きな影を落としている。人口減と公共サービスの縮小によって打撃を受けている地方部の有権者が、主流派の政治家たちに復讐(ふくしゅう)する可能性があるからだ。

 地理学者のクリストフ・ギリュイ(Christophe Guilluy)氏によると、フランス人口の60%が、地方部や地方都市、あるいは都市と地方の中間に位置する地域に居住している。

 フランスの地方部は伝統的に右派候補に投票してきたが、今回、多くの有権者の気持ちが傾いているのは極右候補だ。

 フランス国立パリ政治学院(Sciences Po)の政治学者、パスカル・ペリノー(Pascal Perrineau)氏は今回の仏大統領選について、ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が勝利した昨年の米大統領選同様、地方と都会の亀裂が露呈しているという。

 ペリノー氏はパリ(Paris)で外国特派員らを前に「東西南北どの方向にでもパリから20キロも離れれば、もう一つのフランスを目にするだろう。はるかに停滞し、失業に打ちひしがれ、アイデンティティーのよりどころがなく、社会的・文化的亀裂を特徴とするフランスだ」と語った。

 世論調査によると、23日に迫った大統領選の第1回投票で極右候補のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)氏が、中道候補のエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)前経済相と接戦を繰り広げている。ルペン氏は選挙戦で「グローバル主義者」のエリートに対抗する「忘れられたフランス」の擁護者だとうたっている。

 カドゥールさんはビールをすすりながら「マリーヌ(・ルペン氏)を支持するよ。この国が、これまで試してこなかったのは彼女だけだから」と語った。「主流派の政治家たちは地方の有権者のことなんか気にしない。彼らは都会での自分たちの利益に夢中だ」