■自己判断の危険性

 ベトナムでは、アンさんら女性になりたいトランスジェンダーがエストロゲンやプロゲステロンをひそかに入手しようと思っても難しい。だからこそ、タイから持ち込まれた薬剤を購入している。

 これに対し男性への適合を希望するトランスジェンダーが男性ホルモン剤を求めるのは比較的容易だ。筋肉増強剤や性欲促進剤といった市販品もあり、手に入りやすい。

 医師らは、専門家の指導を受けずにホルモン療法を行うと肝損傷や血栓、高血圧を招きかねないと警鐘を鳴らしており、アンさんはここまで運が良かった。

 だが幸運な人ばかりではない。臀部(でんぶ)へのホルモン注射で膿瘍(のうよう)を起こし、傷が残ってしまったという女性は、ホルモン剤の誤用が原因で病院に駆け込む友人も複数いたと明かした。国内で安全な処置が受けられるようになればと願うばかりだ。