■警察は「正当防衛」と主張

 アントニオさんによれば、夫は確かに麻薬を使用していたが、政府の監視プログラムの下で当局に申告済みで、密売もしていなかったという。また息子については、麻薬に手を出したことは一度もなく、撃たれたのは父親を殺さないでくれと警官に訴えたからだと彼女は話している。

 この一件に関する警察の報告書には、警官たちは先に銃撃を受けたため反撃せざるを得なかったと記されている。これに対してアントニオさんは、警官らが押し入ってきたとき夫も息子も抵抗しなかったと主張している。

 彼女は警察に復讐(ふくしゅう)される恐れがあるとして仮名を望んでいる。

 麻薬撲滅戦争が始まってから8か月間で、警察は正当防衛によって500人以上を殺害したと報告している。

 しかし人権擁護団体は、警察が麻薬常用者や密売人を殺害した後に、組織的に正当防衛をでっち上げていると非難。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)は、警察が人道に対する罪を犯している可能性があるとも警告している。

 アムネスティは2月に公表した報告書で、麻薬撲滅戦争での殺害は都市部の貧困地区に集中しており、犠牲者は男性の稼ぎ手が目立つと指摘。当局が標的にしているのは「もっぱら貧困層」だとし、貧困世帯をさらに追い込んでいると批判している。

 麻薬撲滅戦争の犠牲者の大半は貧しい人だという批判に対してドゥテルテ大統領は先月、下っ端の麻薬の売人も「しこたま稼いで」いて、麻薬ネットワークで重要な役割を担っていると反論した。

「麻薬流通の大物の元締めだろうが、最も貧しい人だろうが私には関係ない。どちらも人を駄目にしようとしているところは同じだ」