【2月27日 AFP】ベトナム人のグエン・ティ・スアン(Nguyen Thi Xuan)さん(94)は、日本兵の夫が彼女をベトナムに残して去ってから60年以上が経過した今も、夫の軍服で作った抱き枕に寄り添って眠っている。

 スアンさんは、第2次世界大戦(World War II)中にベトナムを占領した旧日本軍の兵士たちと恋に落ち、戦後、その恋人と新たな人生を切り開こうとした大勢のベトナム人女性の一人だ。しかし戦後10年と経たないうちに、こうした元日本軍兵士たちの多くは女性たちを置き去りにした。残された家族は極貧状態に陥ったり、敵と家庭を築いたことで裏切り者と非難されたりすることも少なくなかった。

 ただ、スアンさんは、旧占領兵らに対する恨みを抱いてはいない。とりわけ夫に対する恨みは皆無だ。ハノイ(Hanoi)郊外の農村ビン・タイン(Vinh Thanh)でAFPの取材に応じたスアンさんは「彼にとても会いたい。夫のことは決して忘れられない。彼はとても素敵だったから」と語った。

 日本の天皇、皇后両陛下は28日、ベトナムを訪問される。かつての敵対国は1973年の国交樹立以来良好な関係を築いており、歴代天皇として初めてとなる今回の訪問は両国にとって歴史的に重要な意味を持つ。両陛下は、スアンさんら残留元日本兵の家族たちとも面会される予定となっている。

 スアンさんの夫の「シミズ」は、1954年にベトナムを去った。当時、スアンさんは4人目の子どもを妊娠していた。夫は兵士だったにもかかわらず、スアンさんはどちらの政府からも何の援助も受けられなかった。

 夫が去って以降、「本当に苦しかった」と語るスアンさん。ベトナムではグエン・バン・デゥク(Nguyen Van Duc)と名乗っていた夫の写真を握りしめ「あの時期をどうやって乗り越えたのか分からない。つらかったあの頃のことを考えると、今でも怖くなる」と続けた。