【2月16日 AFP】従軍記者・政治家として著名なウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)元英首相が天文学にも造詣が深かったことはあまり知られていないが、地球外生命に関する同氏の論文の科学的洞察力の鋭さが、執筆から60年を経て注目を集めている。

「ブルドッグ」のあだ名で呼ばれたチャーチル氏は第2次世界大戦(World War II)中、英国の戦時内閣を率い、同盟国を支援しながら、広大な宇宙には生命が存在できる環境が地球以外にもあるかもしれないとの理論を打ち立てた先駆者の一人だった――。英科学誌ネイチャー(Nature)は15日、チャーチル氏の論文「われわれは宇宙で孤独なのか(Are We Alone in the Universe?)」を抜粋掲載して、このように紹介した。

 論文の中でチャーチル氏は、「我らが太陽だけが惑星系を持つと考えるほど、私は傲慢(ごうまん)になれない」と述べ、「水や、もしかしたら大気をも保有する適切な大きさ」で「親星である太陽からの距離も適温を維持するのにちょうどよい」惑星が他にも数多くあるはずだと結論付けている。

 こうした考え方は現在、生命の存在・維持に欠かせない水が蒸発も凍結もせず存在し得る「ハビタブルゾーン(生命生存可能領域)」として認知されている。

 この論文は、天文物理学者のマリオ・リビオ(Mario Livio)氏が昨年、米ミズーリ(Missouri)州フルトン(Fulton)にある米国立チャーチル博物館(National Churchill Museum)で入手したもの。

 リビオ氏によると、チャーチル氏は欧州に戦争の足音が迫っていた1939年に論文の第一稿草稿を書き上げ、その後1950年代後半に改稿し、南仏の村にある出版社を訪ねていた。しかし、分かっている限りではこの論文はこれまで発表されず、科学的・学問的な査読も受けていない。

「チャーチル氏の思考の過程が素晴らしい。まるで科学者のように問題を考えている」と、リビオ氏はAFPの取材に語っている。(c)AFP/Mariëtte Le Roux