【2月14日 AFPBB News】着物でストリートダンスを踊った動画が海外でも話題となったダンサーのトリ(TORI)さん(61)。還暦を超えたダンサーは、実は4人の孫がいるおばあさんだが、深夜に開催されるダンスバトル大会に参加しては、圧倒的なパフォーマンスで相手をうならせている。

 ストリートダンスの技を競い合う「ダンスバトル」は、ダンサーがDJの音楽に合わせ、即興で交互に踊りを披露し、その内容で勝敗を決する。TORIさんはこの日、女性限定のダンスバトル大会にペアとソロの両部門で出場。Tシャツにジーンズ、深めにキャップをかぶり、普段は少し控えめに話すトリさんだが、ステージに登ると、キレのある力強いパフォーマンスを見せつけ、場内からは歓声が上がる。ペアを組んだダンサーの熊木なおこ(Naoko Kumaki)さん(30)も、「(トリさんのダンスは)真剣で、重みがある。ダンスの歴史を感じて、表現している」と尊敬のまなざし。

 トリさんがダンスを始めたのは、30代後半。最初は単なる趣味のひとつだったが、50歳のときにストリートダンスの一種である「ポッピング」に出会い、その面白さに開眼した。「すごくかっこいいと思った。でも、見よう見まねでもやりようがない。できないから練習をする。練習をするうちに楽しくなった」

「ポッピング」は、ロボットダンスに全身の筋肉を「弾く(ポップ)」ような動きを加えたもの。ダンスイベントを主催する黒崎陽平(Yohei Kurosaki)さん(27)よれば、「瞬間的に力を入れたり抜いたりする動きは、筋肉が少ない女性にはそもそも難しく、なかなか上手に踊れる人がいない」のだという。

 日常の忙しさにも、トリさんのダンスにかける情熱は揺らがない。仕事を複数掛け持ちし、夜遅くまで働くため、「何もしない日は、年に1日くらいしかない」ほど多忙な日々を送る。その生活の中に、毎晩の自宅での自主練習と、ダンス仲間との深夜練習が組み込まれる。「楽しいから踊っているのが正直なところ」と還暦を迎えたダンサーは笑う。

 ポッピングを始めた頃からトリさんを知るダンス仲間の梅(Ume)さん(45)は、「たぶん彼女、ちやほやされたいんです」と軽口をたたく。しかし彼女のダンスについては、「僕らがもう到達できないところに行ったと思う。体的には僕らより動かないところもあるかもしれないが、ダンスは人間を表現すること。彼女の表現は深くてやばい」。

「盆踊りの太鼓、阿波踊りの鐘と笛の音、沖縄のカチャーシーやアフリカのジャンベのリズム、なんでもそういうものにうずうずする」と話すトリさんの体が思わずリズムを打ち始める。

「人間は、本能的にリズムにのり、音を感じる能力を持っていると思う。それをどれだけ表現できるか」とトリさん。今後は「今の延長線上で。もっと自分のイメージに近づけること」が目標だとためらいなく言ってのける彼女の表現は、年齢という枠を超え、多くの人を魅了し続ける。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue