【2月20日 AFP】エミラ・セラさん(31)は顔を手で覆い、化膿して膿(うみ)がたまった炎症部を隠した──。セラさんは、アルバニアで野放しの状態になっている「美容整形」の被害を受けた女性の一人だ。

 セラさんは、顔にできたしわにを気にし始めたころ、美容師から手軽にできる施術を勧められた。勧められたのは、60ユーロ(約7200円)程度で老化の兆候を簡単に消せるという注射だった。同じ注射を受けた著名人女性らの名前も教えられ、「危なくないと言われたし、よく考えなかった。疑問を持たずに信じてしまった」と当時を振り返った。

 アルバニアでは、美容整形の専門技術や医師の監督がない美容院でこうした施術が行われており、事実上の法の空白地帯となっている。規制のない現状を問題視し、医師たちが警鐘を鳴らしはじめた。

 自身の体に何をどれだけ注入されているのかを理解しないまま、セラさんは8月に注射を受けた。そして、その1回の注射が彼女の人生を狂わせた。

 抗生物質も効かず、痛みと熱、吐き気に常に悩まされ、右のほおにできた腫れもののせいで目は半分しか開けられない。ほぼ顔面まひの状態になった。銀行での職も失ったセラさんは「自殺も考えた」と語った。

■キム・カーダシアンのようになりたくて

 首都ティラナ(Tirana)にクリニックを構える形成外科医のパナヨト・パパ(Panajot Papa)医師は「注射をめぐっては、詐欺師まがいのものがどんどん増えている。中身も問題だ。欧州では禁止されている製品が、トルコや中国から密輸されている」と話す。

 また、同じくティラナにある大学病院の皮膚科医エリオナ・シェフ(Eriona Shehu)医師も、米国のテレビのリアリティーショーのスター、キム・カーダシアン(Kim Kardashian)のようにセクシーになりたいと憧れる気持ちが「美を追求する若いアルバニア人女性たちの人生を破壊している」と指摘した。

 医師らによれば、こうした美容整形術を最も受けている年齢層は16~28歳。同国の経済誌によると、人口約300万人のこの国で2015年の美容整形術の需要は50%以上増加したという。

 医師らが懸念するのは、イタリアやトルコ、ギリシャといった国から、週末だけアルバニアへ来て施術をする人たちの存在だ。「彼らはこうした類の施術に必要な免許も資格ももっていないだろうし、術後の患者の状態に責任も負わない」と、大学病院の耳鼻咽喉科科長ベシム・ボチ(Besim Boci)医師は指摘する。

 現時点では、法の抜け穴状態で、司法は手が出せない。しかし当局はこの問題に取り組む姿勢をみせており、美容製品と美容院を規制する法案が近く議会に提出される見通しだ。(c)AFP/Briseida MEMA