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【AFP記者コラム】カシミール紛争、報じられない人々の心の闇

2017年2月7日 9:36 発信地:スリナガル/インド

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【AFP記者コラム】カシミール紛争、報じられない人々の心の闇
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(c)AFP/Rebecca Conway

【2月7日 AFP】長期の撮影プロジェクトに携わることができるのは特権だ。素晴らしい人々と出会って親しい関係を築くことができる。それは単発のニュースではもちろん、特集記事の取材でもそうそうあり得ないことだ。

 私はインドの首都ニューデリー(New Delhi)を拠点にしながら、1年以上前からカシミール(Kashmir)地方での長期取材に取り組んできた。

 カシミールはヒマラヤ(Himalaya)山脈に接するかつて藩王国だった場所で、インドとパキスタンの分離独立の際に分断され、現在は両国が領有権を主張している。編集者と私は、カシミール地方でこれまでにない視点からの取材をしたいと考え、精神医療に着目した。

 紛争が何十年も続く同地で、現実と折り合いをつけていくことがどれほど心の負担になり得るか──私にはとても興味深い切り口に思えた。そこで、特にカシミール渓谷(Kashmir Valley)でなぜ心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつを患っている人が突出して多いのか、そしてそれがどのように受け止められ、治療が進められているのかを調べ始めた。

 当初は、女性が焦点になるのではと考えていた。カシミール渓谷では紛争によって、一世代の女性がそろって夫や息子を亡くしていたからだ。だが実際は、それよりも大きな話であることが明らかになった。

 1980年後半にインド側のジャム・カシミール(Jammu and Kashmir)州で起こった反政府運動をきっかけに暴力行為が相次ぎ、人権団体の推定では約7万人が犠牲になったという。その後情勢は沈静化したが、同渓谷ではいまだ緊張が続いて騒動が持ち上がることもあり、全域の住民への影響も残っている。

 国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」が2015年に行い昨年結果が発表された調査によれば、カシミール渓谷に暮らす150万人以上にうつの症状が見られるという。

 

インドのジャム・カシミール州スリナガルの精神病院で、統合失調症に苦しむ患者(2015年11月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 私は取材開始以来、カシミールに10回以上足を運んできた。このようなプロジェクトでは、期待以上の写真を撮ることができる。ジャム・カシミール州の夏季州都スリナガル(Srinagar)を歩きながら、私はニューデリーでするよりも多くの人にあいさつをする。ここには私を信じて身の上話をしてくれる、善い人々がいるのだ。

 長期取材では、相手が自分の話をしてくれるのに邪魔にならない範囲で、取材者側がどういう人間であるかも見せていく。そうすれば徐々に信用してもらえる。相手の話に耳を傾け、カシミールでは目にするのに慣れ切ってしまった連日の暴力行為を離れたところで、まだ世に出ていない話を引き出そうと努める。私はこういうことが大事なのだと思っている。誰も自分のことなど聞いてくれないと感じている取材相手の場合は特にそうだ。

 

インドのジャム・カシミール州スリナガルで、行方不明者をめぐる法律相談を受けるため訪れたNGOで待つ親族ら(2016年6月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 私が最も驚いたことの一つは、人々がいかにオープンに精神医療問題について語ってくれたかという点にある。イスラム教徒が多数を占め、非常に保守的なカシミールに暮らす人々はある意味、特に人前で感情をあらわにする度合いという面ではかなり控えめで、その上常に緊張状態に置かれている。

 そのため皆疲弊しており、南アジアでは恥辱と捉えられがちなうつについて話し始めたらどういう反応が返ってくるか、予想もつかなかった。だが突然自ら進んで携帯電話の番号を教えてくれる人、あるいは自分の身に降りかかったことや、親族や遠縁の人が感じていることについて語り始めてくれた人が多かったのは本当に意外だった。

 もう一つ、カメラを携えた者を人々が温かく歓迎してくれたのにも驚いた。情勢が緊迫し、外出禁止令が発令されている最中に街を歩き回っていて、誰かが家の窓から顔を出して昼食に招き入れてくれたことも数え切れない。

 カシミール人と話せば、苦境に置かれているはずの彼らがどれだけ温かくて打たれ強いかがすぐ分かる。そんなふうに自分の領域に他人を招き入れられる人々に接するのは、非常に特別な経験だった。

 昨夏の暴動にはかなり動揺した。私の取材とは直接関係はなかったが、情勢がいかに予測不能であるかを痛感した。暴動が起こると、デモ隊がインド治安部隊に向かって投石する。治安部隊を構成するのは通常、デモを許すなと厳しい命令を受けた年若い兵士らで、催涙ガスやゴム弾で応戦する。

 

カシミールで、イスラム教の最も重要な祭日の一つ「犠牲祭(イード・アル・アドハ)」の際に出された外出禁止令に抗議し、インド軍と衝突するデモ隊(2016年9月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 ところが治安部隊は昨夏から、ペレット銃を使い始めた。私は毎日のように、ペレット銃の負傷者の大半が治療を受け、撃たれた人々を乗せた救急車が入ってくるスリナガル最大の病院へ通った。

 ある日私は、北カシミール出身の少年の一行を撮影させてもらった。特に騒動が起こりやすい金曜礼拝の後、モスクを出ようとしていた際に撃たれたという。いずれも10代後半の少年や20代前半の若者で、一人残らずシャツをまくり上げて、背中全体に埋まったペレット弾を見せてくれた。

 

ペレット弾の傷を見せる負傷者(2016年8月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 同じ場所へ何度も足を運んでいると、短期の取材では到底撮影できなかったはずの写真が撮れることがある。ペレット弾による負傷者の写真は、その一例となった。

 あるデモの最後尾で、私はムシュタク・アフメド(Mushtaq Ahmed)君(11)に会った。アフメド君の自宅は、デモがよく行われるスリナガル中心部の通りのすぐそばにあり、必然的にインド治安部隊と警察の衝突も頻発する。そのせいで地元カメラマンがこぞって撮影に訪れ、ぶらりと歩くのにも悪くない場所なのだが、そこで私は一行が熱心に話し込んでいるのを目にした。

 私はデモの最後尾にいたムシュタク君に話し掛け、隣人らに交じって衝突を見ていたせいで涙が止まらない彼に、自分のガスマスクを着用させた。こういうことが起こったら、家の中に居た方が良いよと言ったのを私は覚えている。彼はこんなことには関わらせたくないと誰もが思うような、小さくてとてもかわいらしい子どもだったのだ。

 

ペレット弾で負傷したムシュタク・アフメド君(11、2016年10月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 それから約1か月後、私はペレット銃の被害者の素顔を撮影しようと、ある病院に忍び込ませてもらっていた。職員に手引きを依頼したのだ。手配にはそれなりの時間がかかった。最初は正規ルートで交渉しようとしたが、結局勝手に入ってなるべく人目に付かないよう作業した。

 われわれは眼科の病室付近の部屋でセッティングをし、できるだけ音を立てないようにした。背景幕や照明、カメラがあるので容易ではなかった。しかも撮影に応じてくれるかどうか、聞きにいかなければならないボランティアもいた。取材先のネットワーク内で信頼関係がなかったら、そんなことは絶対にできなかっただろう。

 その時だ。ムシュタク君が父親と共に入ってきた。すぐに彼とは分からなかった。私を見た父親が、「息子はあなたのことを知っている。ガスマスクを着けさせてくれたでしょう」などと話してくれた。

 私はそれを聞いて初めて、目の前の痛々しい姿の少年が、数週間前に出会った小さくてとてもかわいいムシュタク君だと気付いた。ただあの時と違うのは、彼は片目を失明していた。

 気の毒でならなかった。クリケットをしていて撃たれたらしい。デモを見ていたのでも、参加していたわけでもなかった。記事用に印象的なポートレートをどうしても撮りたいと思ってはいたが、それがあの子のこんな姿を撮影することになるとは夢にも思っていなかった。

 葬儀で悲しみに暮れる遺族らの写真も、繰り返し足を運ぶことが成果をもたらす好例だ。こういう命の奪われ方が遺族に与える影響力の大きさをどうしても描き出したいと思っていた。そこで方々の情報筋に気に掛けておいてもらい、葬儀が行われるなら知らせてほしいと依頼しておいたのだ。私が撮りたかったのは、デモが原因で、あるいは民兵だと疑われたがゆえに命を落とした人の葬儀ではなく、ある日突然消息を絶った人の葬儀だった。

 

インドのジャム・カシミール州スリナガルにあるシャーハムダン・モスクで祈る人々(2016年9月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 スリナガルで得た情報筋の一人が、葬儀が間もなく行われると知らせてくれた。車で1時間半ほど離れたショピアン(Shopian)地区だったが、すぐ車で向かうことができた。

 葬儀の祈祷(きとう)が始まる直前に到着し、遺族と地元の宗教指導者に撮影の許可を得るや否や、飛び込むようにして作業を始めた。非常に押しつけがましくぶしつけなようではあったが、こういう一面こそ私が本当に伝えたかったものだ。

 写真の女性は、亡くなったラシク(Rasiq)君のおばで、姿が見える前に先に声が聞こえていた。彼女は村内で、男性らが祈りをささげるために集まっていた場所へ歩いて向かった。どうやっても慰めようのない様子で、村の男性らが礼拝に集まる中、ただ泣き崩れていた。結局周囲に抱えられるようにしてその場を去った。

 

ラシク君の葬儀に参列したおば(中央、2015年12月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 私はラシク君の埋葬の最中に自宅を訪れた。遺族女性らの撮影を許してもらえるかどうか尋ねるつもりだった。彼女らはたちまち私を招き入れてくれた。私はこの写真を、約70人の女性がいる室内で撮影した。非常に混み合っていた。

 カシミールで誰かがこのような形で亡くなった時には、祈りをささげるために、また遺族に寄り添うために大勢が遠方から集まる様子がよく示されている。民兵が他界した場合、その数は何千人に上ることもあり、これはある個人の死に際して一般市民が肩を寄せ合っている、非常に強い印象を残す悲愴(ひそう)な光景だった。何度も足を運んだがゆえに得られた人脈がなければ、決して撮影できなかったはずだ。

 カシミールでのこれまでの取材で最も衝撃的だったことの一つは、スリナガルから2時間ほどの町パルハラン(Palhallan)に行き、夫や息子が行方不明になったり、暴力行為で殺害されたりした女性らに話を聞いたことだ。あらゆる希望を失っていた。愛する人の行方が分からなくなったという女性の大半が、どうしても「幕引き」できずにいた。

 夫や息子がある日家を出たきり戻ってこないという女性らは快く私を招き入れ、インタビューと撮影に応じてくれた。パキスタンとの国境に近いクプワラ(Kupwara)で取材したある女性は、息子がある日突然消息を絶っていた。何年も探し続け、山々を巡っては地元住民に尋ね、インド当局にも届け出た。息子の居場所を教えると約束した心霊療法士らにまで金銭を支払っていたが、誰も見つけられなかった。村民らは女性に、どうかしていると諭したという。

 

カシミールのクプワラで、2003年に行方不明になった息子について語る母親。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 村民の家に入れてもらうたびに、こういう残された人々に出会った。これも私の心に残り続け、このテーマを大きな声で伝え続けなければと思わせてくれることの一つだ。皆深い心痛とうつ、PTSDを抱えながらやはり生き続けている。彼らの物語は、1回のデモや暴力行為の1回の急増よりも、はるかに長期にわたるものであり、カシミールの日常生活に織り込まれたこの紛争が引き続き抱えている側面の一つだ。

 

インドのジャム・カシミール州スリナガルで、行方不明の息子2人に関する法律相談を受けるため訪れたNGOで待つ母親(2016年6月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 スリナガル政府は精神医療施設を2か所運営しており、私はその両施設でも多くの時間を過ごした。大変献身的で、非常に必要とされている精神科医やその他のスタッフのチームの横で仕事をさせてもらったことも、この取材で私の心にずっと残るであろう側面の一つだ。例えばトラウマ治療を受ける外来患者向けの診察では、診療開始前に病院に到着した。いつも待合室は既に、診察やリフィル処方箋、紹介を待つ人々でごった返していた。

 薬局の前に立てばまた、カシミールの精神医療問題の深刻さが見てとれた。私はうつの治療薬を受け取る人々や、新しい処方箋への記入を待って調剤薬局の窓口に押し寄せた患者らを撮影しようと待っていた。窓口には小さな格子があり、患者らは向こう数週間分の錠剤を受け取るために、その隙間から手を伸ばさなければならない。それを目にするのは相当胸が痛んだ。皆、午前中いっぱいかけて赴いてやっと手に入れた薬を、声を出して数えていた。数週間後には、また同じことを繰り返すために戻ってこなければならない。

 

インドのジャム・カシミール州スリナガルにある調剤薬局の窓口で、抗うつ剤を受け取る患者(2015年12月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway

 

 カシミール渓谷は息をのむほど美しいが、抑圧と悲痛に近い雰囲気に覆われている。その重みを抱えながら生きる姿──それこそ私がこの取材を通じて伝えていこうとし続けることだ。(c)AFP/Rebecca Conway

このコラムは、インド・ニューデリーを拠点とするレベッカ・コンウェー(Rebecca Conway)カメラマンが、パリ(Paris)本社のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者と共同執筆し、2017年1月18日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。

 

インドのジャム・カシミール州スリナガルにある墓地で祈る人(2016年6月撮影)。(c)AFP/Rebecca Conway
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