【2月2日 AFP】運動ニューロン変性疾患が原因で体が完全にまひした患者と意思疎通を図る方法を国際研究チームが発見した。研究論文がこのほど発表された。研究チームによると、患者らはみな「今は幸せ」であることを伝えたという。

 1月31日付のオンライン科学誌プロス・バイオロジー(PLoS Biology)に発表された研究論文は、完全な「閉じ込め」症候群の患者4人に基づくものだ。閉じ込め症候群では、運動に関与する神経系の一部を破壊する筋萎縮性側索硬化症(ALS)が原因で、患者は体を全く動かせない状態となる。

 研究で対象となったのは、まばたきや目を動かすこともできず、人工呼吸器の助けで呼吸している患者ら。

 研究チームは今回、脳の酸素濃度を測定する非侵襲的な脳‐コンピューター間インターフェース(Brain-Computer Interface、BCI)を用いて患者との意思の疎通を図った。質問への回答は、患者の「はい」か「いいえ」の思考をBCIを通じて検知した。検知の精度は約70%に上ったという。

 質問の一部には、女性に夫の名前が合っているかを尋ねるものや、「フランスの首都はベルリン(Berlin)か?」といった単純な内容のものも含まれていた。娘がボーイフレンドと結婚するべきかどうかを尋ねられた男性患者は、10回中9回「いいえ」と答えた。

 また、「あなたは幸せですか」との質問に対しては、それぞれ「はい」と返答した。数週間に及んだ調査期間中、この返答は一貫していた。

 論文の主執筆者で、スイスのビース・バイオ神経工学センター(Wyss Center for Bio and Neuroengineering)のニールス・ビルバウマー(Niels Birbaumer)教授は「完全な閉じ込め状態の患者4人に生活の質(クオリティー・オブ・ライフ、QOL)について尋ねた際の肯定的な返答には当初、驚かされた」と話す。そして、「4人はみな、呼吸ができなくなった時点で、生命維持のための人工呼吸器の装着を選んでいる。そういった意味では、彼らは既に生きることを選択している」と続けた。

 同様の症状がみられる患者をめぐっては、BCIを使うための目標指向型の思考ができないため、コミュニケーションを図ることができないと、研究者らの間ではこれまで考えられていた。

 しかし、今回の研究結果を受けて「完全な閉じ込め症候群の患者はコミュニケーション能力が失われているとする私自身の説は、今回の驚くべき結果によって覆された」とビルバウマー教授は語る。

 そして、「4人の患者はみな、自身の思考だけを使って、尋ねられた個人的な質問に返答できることが明らかになった」「この研究結果をさらに多くの患者で再現できれば、運動ニューロン疾患患者が陥る完全な閉じ込め状態で有用なコミュニケーション手段を取り戻せるかもしれないと考えている」とも述べた。

 今回の研究では、脳内の血液酸素化および電気的活動を測定するための技術として、近赤外分光法と脳波記録法(EEG)とを採用した。

 一部のまひ患者との意思疎通を助けるBCIは他にもあるが、目の動きが必要となるものがその多くを占めている。

 今後は、ALSに起因するまひ状態の患者の他、脳卒中や脊髄損傷の患者など、この技術がより広い範囲に適応可能かを検証するための研究が重ねられる予定だ。(c)AFP