【2月1日 MODE PRESS】アメリカの画家、エリザベス・ペイトン(Elizabeth Peyton)の個展「エリザベス ペイトン:Still life 静/生」が東京・原美術館にて5月7日まで開催される。現代のユース・カルチャーの象徴的存在であるペイトン自身が選んだ、40点あまりの作品群が一望できる展覧会だ。

 ニューヨーク在住のペイトンは、カート・コバーン(Kurt Cobain)やパティ・スミス(Patti Smith)といったカルチャーアイコンから歴史上の人物まで、自身にとっての憧れや美をキャンバスに描くアーティスト。その透明感ある特有の色彩と繊細な筆致は、彼女が本格的に活動を始めた90年代に時代に新風をもたらす“新しい具象画”と称された。

 原美術館館長・原俊夫(Toshio Hara)はペイトンから「思慮深さ、豊かな感性、そして意思の強さを感じる」と言う。来日した作家本人は、控えめながらも真摯な語り口調で、自身の大切な作品について語ってくれた。

「ニルヴァーナ」のフロントマン、カート・コバーンを描いた作品(2017年1月20日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji 「Kurt Sleeping」 1995 Private Collection, New York

■作品との親密な距離

 今回の展覧会は、日本の美術館では初の個展となる。1997年にGallery Side 2で個展を、また2006年に国立国際美術館「エッセンシャル・ペインティング」展に参加して以来、日本での目立った活動はなかった。だが前回の個展で、ほかにはない受け入れ方をされているのを感じたペイトンは「私の作品が日本と特別な絆があるような気がした」と今回の来日を決めた。

「原美術館は私の作品をいい形で守ってくれる。そして作品とマッチしていて、親密な関係が醸し出されていると思う」。歴史ある邸宅である原美術館のデリケートな雰囲気は、まさに彼女の作品を紹介するにふさわしい舞台となった。

 5つのセクションで展示されるのは、ポートレイトや静物画などペイトン自身がセレクトした42点。「非常にロマンチックで情熱的で、私自身にとっても意味が多いものを選ばせてもらった。思い入れがあるものばかりで、自分でキープしている作品もいくつかある」と語る。

(左)ジョージア・オキーフのポートレイト(2017年1月20日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji 左より:「Georgia O'Keeffe after Stieglitz 1918」 2006 The Sander Collection 「Julian」 2004 Private Collection, New York

■音楽は愛を引き出す

 近年ではオペラに関心を持っており、「リヒャルト ワーグナー」(2010)や、「イゾルデ 魔法のプティクル/琥珀色」(2015-16)など、オペラからインスピレーションを得た作品も多い。「文学的でありながら潜在意識の奥深くで琴線に触れる。これは私が絵を描く際にも考えることだと気づかされた」とその魅力を語る。

 とくにペイトンが魅了されたのはテノール歌手のヨナス・カウスマン(Jonas Kaufmann)だ。「彼のパフォーマンスは本当に素晴らしく、自分でさえもあったと気づかないような感情を呼び起こしてくれる。そして自分がどこにいるかもわからないほど遠くに連れて行ってくれる」

 そして「私は音楽を、自分の中のある感情を引きずりだし、絵にする道具として使う。特に愛に関わる感情というものを引き出すことが多い」と説明する。

作品に吸い寄せられるように見入る鑑賞者(2017年1月20日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji 左より:「Isa Genzken 1980」 1980 Private Collection 「felix」 2011 Private Collection