【1月17日 MODE PRESS】デザイナー/アーティストの吉岡徳仁(Tokujin Yoshioka)が東京・銀座の資生堂ギャラリーにて3月26日まで「吉岡徳仁 スペクトル ー プリズムから放たれる虹の光線」展を開催する。本展では、霧が立ち込める真っ白な空間の中、無数の虹の光線(スペクトル)が放たれる体験型インスタレーションを発表。天井の高さを最大限に生かし、まったくの異世界へと生まれ変わったギャラリーは、まるでステンドグラスから光が差し込む大聖堂のようだ。

 吉岡は、アートやデザイン、建築など幅広い分野において国内外で高く評価される存在。自由な着想と実験的なテクノロジーにより「セカンド・ネイチャー」を作り出す名手として知られるが、「テクノロジーは大事な要素ではあるが、時代とともに色あせてしまうもの。だからそれよりも、自然の原理を知ることが重要」と語る。海外では「デザイン界の詩人」との異名もとる吉岡だが、今回の作品へ込めたメッセージとはいったいどのようなものだろうか?

虹色の光に包まれる会場(2017年1月11日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■光の神秘に心を奪われて

 虹は、これまでも吉岡の作品において重要な役割を担ってきた。2013年には、プリズムで作られた建築「虹の教会 – Rainbow Church」を発表。今回は壁面に埋め込まれた約200個のプリズムにより、虹の光を体験できるインスタレーションを誕生させた。数千もの7色の光線は、太陽光を研究して作り出した自然の光。光源はランダムな揺らぎを保ち、木漏れ日のような効果を生み出している。「太陽の光以上に美しい光はない。再現するのはなかなか難しく、さまざまな試行錯誤を繰り返した」と吉岡はその苦労を語る。

「自然と人間との関係性」をテーマに作品を作り続けてきた吉岡だが、その中でも光は重要な要素だという。太陽の光は白く透明に見えても、実は無限の色が重なり合っている。その神秘を体験することで、人間の感覚を呼び覚ますことが今回のコンセプトだ。「人それぞれ自然体験は違うので、その人が今まで培ってきた経験が作品と一体となる。子供の頃の記憶などを認知しながら、作品を見てほしい」

光の刀をイメージしたガラスのベンチ「Water Block - KATANA」(c)Tokujin Yoshioka

■自分だけ感動しても意味がない

 もう一つの新作は、光の刀をイメージしたガラスのベンチ「Water Block - KATANA」だ。これは2011年よりパリのオルセー美術館で常設展示されているベンチ「Water Block」に続く作品。無垢のガラスを使い、プラチナのモールドによって成型した。古い日本の技術だが、ガラスが固まる瞬間に自然に波が生まれ、水の塊のような造形に仕上がる。「僕は、透明な素材を使ってデザインすることが世界一多いと思う。それは透明なものが光に一番近いから」。京都にガラスの茶室までを誕生させた吉岡にとっては、光そのものが作品の素材なのだろう。

 プロダクトデザイナーとしても多くの代表作を持つが「僕自身、フォルムや外観をデザインすることにあまり興味がない」と明かす。「やはり表面的なものではなくて、人間が感じ取ることができるすべての要素を使ってものを作りたい」。こういったインスタレーションを作る際は、「人間がどのように物事を捉えているか。なぜ人は感動するか」といったことに思いをはせて制作している。「人に伝えることについては、すごく努力している。やはりたくさんの人が見てどきどきするような、それで完結するような作品がいいと思うから」

「Water Block - KATANA」に腰かけてインタビューに応じる吉岡(2017年1月11日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■常識を超えるものを作りたい

 吉岡が一日の中で好きな時間帯は、朝。窓から差し込む朝日を見ながらコーヒーを飲むのが日課だという。そして一番好きな自然現象は、飛行機から見える虹の光景だ。「いつも自分が体験したいものを作っている。光に包まれてみたいな、虹を見てみたいな、といった思いにどんどんピントを合わせて実現していく。つねにそういったアイデアを自分の中にとっておいて、プロジェクトがあるときに爆発させている」

 多忙を極め、今もいくつものプロジェクトが同時進行中だ。次なるプロジェクトの構想をたった3日で練らなければならないことも多いが、今回の展覧会の準備中にも、また新たにアイデアが生まれたと微笑む。「次はもっと大規模なものを作りたい。常識を超えるようなものが好き」

 現在、取り組んでいるミラノサローネのプロジェクトのテーマは「SF」だという。この光を自在に操るアーティストは、美しい虹の彼方にどんな未来のビジョンを描いているのだろうか?

資生堂ギャラリーの外観。(c)Tokujin Yoshioka

・吉岡徳仁 スペクトル ー プリズムから放たれる虹の光線
期間:開催中~3月26日
定休:月曜
時間:平日11:00~19:00、日・祝祭日11:00~18:00
会場:資生堂ギャラリー
住所:東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
電話:03-3572-3901

■関連情報
・資生堂ギャラリー 公式HP:http://www.shiseidogroup.jp/gallery/
・吉岡徳仁デザイン事務所 公式HP:http://www.tokujin.com/
(c)MODE PRESS