【1月10日 AFP】椅子に腰かけるのには手助けがいるが、座るやいなや足で3回拍子を打ち、温厚だが威厳に満ちた口調で指示を出す──キューバ・バレエ史上最も畏敬の念を抱かれているダンサーの1人、アリシア・アロンソ(Alicia Alonso)さん(96)だ。

 アロンソさんは目が見えず、きゃしゃだ。だが足取りはしっかりしており、キューバ・バレエ界におけるとてつもなく大きな役割も失っていない。

「用意して。始めましょう!」。キューバ国立バレエ団(National Ballet of Cuba)のフロアで、アロンソさんはリハーサルの開始を告げる。最初の夫、フェルナンド・アロンソ(Fernando Alonso)さんとともに設立した同バレエ団を、彼女は今も率いている。

 アロンソさんの目の前では、さまざまな人種のダンサーたちが「くるみ割り人形(The Nutcracker)」の稽古に励んでいる。キューバ革命58周年を迎える1月1日の記念公演のためだった。アロンソさんはダンサーを見ることができないが、動きはすべて想像できる。「私はここで踊っている、心の中よ」といつもいう。

 バレリーナの最高位の称号「プリマ・バレリーナ・アッソルータ」をもつアロンソさんは、いつも大きなサングラスをかけ、鮮やかな赤いパンツとおそろいのヘッドスカーフ、赤紫の口紅と長い爪にはピンクのマニキュアという華やかないでたちだ。

 彼女の脇で2人のダンサーが踊りの動きすべてを彼女に耳打ちしている。若いときに網膜はく離を患って以来、目が見えないバレエ人生を送ったアロンソさんは、両手で大きな動きを空中に描いていく。

「あなたたちは、不滅のもの、永遠なるものをやっているの。そして全世界に届かなければならないのよ」と、アロンソさんは若いダンサーたちに語りかける。「あなたたちの手に、体に、顔にそれがあるでしょう。しかもそれができるという幸福がある。うらやましいわ」