【12月2日 AFP】サッカーのピッチ上で側転を繰り返す少年たち。それを見守っていたコーチが、おもむろに自分を蹴ってみろと言う。繰り出されたカンフーキックをかわし、脚をつかんで投げ飛ばしながらコーチは言う。「いいか、蹴りはこうやって防ぐんだ」――跳び蹴りを浴びせたり、脚をつかんで投げ飛ばしたりすれば、サッカーでは間違いなくレッドカードだ。しかし、「少林足球訓練基地(Shaolin soccer training base)」が目指しているのは、古来から伝わる中国武術を応用して優秀なサッカー選手を育成し、中国代表に送り込むことだ。

 現在のサッカー中国代表は苦境に立たされている。世界一の人口を誇る中国だが、FIFAランキングでは84位に沈んでいる。11月中旬に行われたW杯ロシア大会(2018 World Cup)アジア最終予選でも、人口わずか30万人のカタール相手にホームで0-0のスコアレスドローに終わり、W杯出場はほぼ絶望的となった。それでも、共産党が2050年までの「サッカー超大国」化を目指す中国は、育成年代のサッカー人口を2020年までに5000万人に増やすという目標の下、育成の現場に多額の資金を投じている。

 河南(Henan)省の少林寺(Shaolin Temple)は、中国武術発祥の地といわれる。そこからほんの数キロメートル離れた場所にある塔溝武術学校(Tagou martial arts school)の広大な敷地では、3万5000人の生徒が下宿をしながら過酷な環境で鍛錬に励んでいる。そして新たに始まったサッカープログラムには、男女合わせて約1500人の子どもが参加を決めた。

 子どもたちは真新しい人工芝のピッチに集まり、ピッチをいくつかに分割して5対5のゲームを始める。将来的には観客を入れて試合を行う予定もあるが、コンクリートの客席は現在建設途中で、練習中もミキサーが回り、子どもたちの頭上ではクレーンが鉄骨を振り回す。

「少林」の文字の入ったジャージーと、武術家がよく履いているスニーカー風の靴といういでたちの少年たちは、ピッチの端から端まで側転を繰り返し、それから整然と並んで蹴りや突きの練習に移る。武術大会の優勝経験も持つ実力者でありながら、2015年に1年間のサッカー指導者養成コースを受講し、現在は12歳以下の子どもたちを受け持っているソンコーチは「国の要請に応じた形ですね」と話している。

「われわれの目標は、少林武術とサッカーを融合させて、独自の概念を生み出すことです。柔軟性やパワーといった武術の素養は、サッカーにも大いに生きると思います。跳躍力も武器になるでしょう」